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物流の世界史――グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?(ダイヤモンド社) [外交・国際関係]


物流の世界史――グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?

物流の世界史――グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?

  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: Kindle版



『物流の世界史』とあるので、紀元前からずっとモノの流れを追って、運送運輸業の事始めなど記されている本かと思ったが、どちらかというと副題の「グローバル化」の方に重点がある。

内容としては、貿易のこと、陸路より海路の方がコストがかからなかったこと、海運貿易を妨げる要素として積み荷の量の限界、輸送仲介業者、税金(関税)、天候等があったこと。そして、貿易の「グローバル化を可能にするには外洋汽船、電信ケーブル、そして国際貿易に関する発想の大転換という三つのイノベーションが必要だった(こと)、そのいずれもが、予想もしなかった資本主義の台頭によって実現した」こと。グローバル化への道を開いた思想家デヴィッド・リカードの「比較優位理論」のこと、などなど記されていく。

著者はグローバル化を「第一」「第二」「第三」と分けてそれぞれについて論じるが、『はじめに』、次のように記している。〈本書が扱うのは、1980年代後半から2010年代初頭にかけての四半世紀における「第三のグローバル化」である。さらに輸送・通信・情報技術が、長距離バリューチェーンに基づく企業活動にどんな役割を果たしたかにも注目したい。こうした国際経済の形はそれまで存在したいかなる経済の形とも根本的に異なっていた〉。

原題は“Outside The Box”で、“The Box「箱」”とはコンテナ船のこと。コンテナ船はグローバル化の象徴とされている。本書冒頭に取りあげられるのは全長397.71 mの巨大コンテナ船:エマ・マークス号の2006年の進水式の様子である。著者には前著『コンテナ物語ー世界を変えたのは「箱」の発明だった(日経BP)』があるので、本書はその続巻になるのだろう。本書全体を覆うのは、モノをより多く運ぶ目的で造られた巨大コンテナ船に対する目論見が外れたことである。

最終章、最終末段落は次のようなものだ。〈エマ・マークス号は未知の海に船出したわけではない。何十年もかけて構築されてきた貿易や対外投資に関するルール、金融規制といった国際的な枠組みに導かれての船出だった。だが、こうした枠組みがグローバル化の暴走をもたらしたことも間違いない。2010年代、各国の指導者たちは国内の政治的利害に動かされて、この枠組みを支える重要な柱をあっさり引き抜いてしまった。それを何で置き換えるのか、さしたる考えもないままに・・・。本書が示唆するように、より緩やかなグローバル化というものが存在するとしても、やはり枠組みは必要である。そうした新しい枠組みを構築することは、かこの枠組みを捨て去ることよりはるかに難しいだろう〉。

では、副題にある〔グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?〕の著者の回答はいかなるものか。「20章 次に来る波(サービス産業は世界競争へ)」には次のようにある。〈グローバル化は終わったのだろうか。決してそうではない。むしろ新しい段階に入ったのだ。工場生産や対外投資におけるグローバル化は後退しているが、サービスやアイデアの流通という点では急速に進化している。第三のグローバル化のビジョンとは、先進国の大企業で働くエンジニアやデザイナーが製品を考案し、低賃金の地域でこれを製造し、世界中で販売するというものだった。第四のグローバル化では、研究開発やエンジニアリング、デザインがグローバル化される。具体的に言えば、・・後略・・〉

戦後、グローバル化の波にあえぐ日本、韓国、中国のあり様も描かれている。それが物流の歴史のなかで、どのように位置づけられているか知ることのできる点でも興味深い本である。



コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版

コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版

  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: Kindle版



例外時代

例外時代

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2017/11/16
  • メディア: 単行本


では、副題〔グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?〕の著者の回答はいかなるものか。「20章 次に来る波(サービス産業は世界競争へ)」に次のようにある。〈グローバル化は終わったのだろうか。決してそうではない。むしろ新しい段階に入ったのだ。工場生産や対外投資におけるグローバル化は後退しているが、サービスやアイデアの流通という点では急速に進化している。第三のグローバル化のビジョンとは、先進国の大企業で働くエンジニアやデザイナーが製品を考案し、低賃金の地域でこれを製造し、世界中で販売するというものだった。第四のグローバル化では、研究開発やエンジニアリング、デザインがグローバル化される。具体的に言えば、・・後略・・〉世界のトップ100の大企業が世界の研究開発費の3分の1以上を占め、これを複数の国の技術センターに分散し、現地の人材を活用して製品を現地の好みに合わせるケースが増えるということだ。一方で、製造はほとんどどこで行ってもよくなる。有形物生産の役割は低下し、製造業者が株主の金を使って現地社員を雇って生産するのでなく、現地企業とのライセンス契約や製造サービス業者との契約という形をとることが多くなる。したがって外国への直接投資は減るだろう。必用な技術訓練を受けていれば、たとえ高賃金の国の労働者であっても高度に自動化された工場で働けるようになる。p286
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