「本をどう読むか: 幸せになる読書術」 岸見 一郎著 ポプラ社 [読書法・術]
(166)本をどう読むか: 幸せになる読書術 (ポプラ新書)
- 作者: 岸見 一郎
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2019/02/08
- メディア: 新書
簡単そうで奥が深い、そんな印象だ
評しにくい本である。まとめにくい本と言ってもいい。よくある「読書術」「読書法」にある内容と大差ないことを言っているようでも、どこか自己撞着を起こしているような、読んでいて「それは矛盾しているのでは・・」と言いたくなるようなところがあって、一筋縄ではいかない感じなのだ。それは、評者がそう感じるにすぎないのかもしれないが、たぶん哲学者として「対話」を重んじ、また心理カウンセラーとしてクライアントと向き合うその姿勢が、記述のなかに出ているのかもしれない。大きな放物線を描いて球がこちらに飛んでくる感じなのだ。球速はさほどなくキャッチしやすい球が投じられてはいるのだが、それを目で追い、キャッチするまでに、球をキャッチするこちらの力量が試されているようでもある。単純な物言いでも、最終的にそれを選択したというだけで、相矛盾するような深い思慮の果てに語られることもある。その思慮の深さを感じさせるのかとも思う。では、その矛盾している点はどこかと尋ねられて、あらためて考えると矛盾と言うほどのものでもない。だから、矛盾というより、結論に至るまでの思慮が深く、その思慮の太さが、線というより綱のように縒り合わされているので、論議のブレのようなものとして感じられるのかもしれない。いずれにしろ、そのお蔭で著者とともに考えさせられるのが本書の良い点のように思える。著者は、「あまり、安直な答えを出すような人の本も避ける方がいいかもしれません。自分の生き方を吟味するためには、こんな人生を生きなさいと安直に教えてくれる本を読んではいけないのです(p44)」という。まさに本書は、そのようにいう方ならでは本といえるのかもしれない。
著者はまた、〈(人の生き方は)、「どんな」本を読んでいるかではなく「どのように」本を読んでいるかを見れば〉わかるという。なぜなら、本を読むのが好きな人は、どんな本でも読むし、乱読するからだという。「自分で選んで本を読む経験を重ね」「本を読んでいるうちに、どんな本が面白いとか、読むに値するとか、あるいは、反対につまらないとか、時間をかけて読むに値しないというようなことが少しずつわかってきます」。それゆえ、〈「どのように」本を読めばこのようなことがわかるようになったかという話を聞けば、その人がどんな生き方をしてきたかがわかります〉ともいう。
つまるところ、本書は、著者の生き方を示す本ということになるのだろう。「中学生だった私」が「夢中で何度も読」んだ加藤周一『読書術』、森有正『バビロンの流れのほとりにて』、中央公論社『世界の名著12聖書』、平凡社『哲学事典』、藤沢令夫『プラトンの哲学(岩波新書)』、多田正行『思考訓練の場としての英文解釈』などなどが著者の人生と絡めて紹介されていく。
簡単そうで奥が深い、そんな印象だ。すこし時間を置いて、再び読んでみたい。
2019年4月9日にレビュー