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「77冊から読む 科学と不確実な社会」海部 宣男著 岩波書店 [科学一般]


77冊から読む 科学と不確実な社会

77冊から読む 科学と不確実な社会

  • 作者: 海部 宣男
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: 単行本


世界でも特異な「文系支配国家」に風穴を開ける

毎日書評賞受賞作『世界を知る101冊』の続編。〈世界でも特異な「文系支配国家」〉に風穴を開ける、もしくは風通しを良くする書評集。

著者は「あとがき」でいう。〈近代日本の統治はもともと、科学に重きを置いてこなかった。それは明治政府以来の伝統〉。〈いまも政治家や官僚のトップ、企業のトップに理系出身者、まして学位を持つ人はほとんどいない〉。〈統治・社会運営から科学・科学者が事実上締め出されていることにおいて日本はかなり極端だが、いまや科学不信・科学軽視は世界的な潮流になろうとしているようだ。〉

〈科学に基づく長期的視点を持とうとしないこと、事実を踏まえない乱暴な主張、人権や社会的不公平の軽視といった傾向は、日本を含めて復古的右派勢力にはかなり共通している。それは政治信条の如何は別としても、将来の日本にとって大きな心配の種だ。なぜなら、自然界や社会の法則性をとらえ、それを踏まえた長期的なビジョンを提示して社会に活かしてゆくことこそが、現代社会における科学の最も大事な役割なのだから。それはまた、科学にしかできない役割なのである。いま世界で台頭しつつある非論理性や非科学性に基づく政策は、まちがいなく社会の質的低下、ひいては大きな混乱を招くことになるだろう。〉

〈現代文明では科学がますます社会と深く結びついており、それは科学技術コミュニケーションを発展させる努力や、科学者だけでは解決できない社会の中で起きる科学的問題を正面から取り上げようという「トランスサイエンス」の推進(p169)などに表れている。社会への関心を閉ざして自分の研究に専念するという時代は終わりつつあることを、分野を問わず現代の研究者は認識しなければならないだろう。「より良い社会のための科学」という概念(p172)は、欧米の研究者の間ではすでに大きな拡がりを見せているし、日本でもその兆しが強まっていることを感じる〉。〈科学にとっては、これからが踏ん張りどころなのだろう〉。

以上、6ページにわたる「あとがき」からの抜粋であるが、本書は、かくいう方による書評集である。理系は専門領域に偏る傾向があり、文系は諸学横断的な教養が求められる、それゆえジェネラリストは文系出身者がふさわしいようにも聞くが、理系・文系を横断する(しかも、科学的専門性の高い)人材がこれからは求められるようである。そのような視点、思考を身につけるうえで本書は役立つにちがいない。

2019年3月27日にレビュー

世界を知る101冊――科学から何が見えるか

世界を知る101冊――科学から何が見えるか

  • 作者: 海部 宣男
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 単行本



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