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「江戸の古本屋: 近世書肆のしごと」 橋口 侯之介著 平凡社 [日本史]


江戸の古本屋: 近世書肆のしごと

江戸の古本屋: 近世書肆のしごと

  • 作者: 橋口 侯之介
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/12/17
  • メディア: 単行本


今日、本を自由に入手できること、「重宝な」本屋、古本屋に感謝

中島誠之助さんに倣って「いい仕事してますねぇ」と言いたい。本書で著者は、江戸時代の本屋の仕事を明らかにしてくれた。ふるい史料をよく調査し、まとめてくれた。たとえるなら、『カラマーゾフの兄弟』の新訳を出した亀山郁夫さんが、野崎歓さんの『赤と黒』の新訳を指して「いいレンズで世界を眺めたような感じ。底が見える翻訳だし、底がなければ、底がないということがわかる訳です。」と絶賛したことがあるが、橋口さんも、底まで見通しがきき、見えないところはここまでとはっきり分かる仕事をされている。それは、これから、著者の仕事を受け継ぐ研究者らにとってもたいへん有用にちがいない。

https://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-03-26

江戸時代について、日本の学会では「近世」として扱かわれる。ところが、外国の学会では、「初期近代」として扱うのだという。そのことを、社会学者の加藤秀俊さんの著書『メディアの展開』を通して知った。加藤さんは「徳川400年史観」を唱え、明治維新など大した時代区分ではない、「徳川時代」の享保から天明にかけての1世紀、つまり18世紀に大きな社会変動と文化革命があったと記している。本書を、読みつつ、そのことを裏付けるものとして感じるところ大であった。以前、大阪の堂島米会所が、世界初の先物取引を実施したことを知ったが、本書のなかで示される本屋相互の代金決済の仕方(本替)などみると、加藤秀俊さんの主張は正しいように感じる。

もっとも著者は『序章 江戸時代の本屋というもの』を次のように始める。〈今日の本屋に近い形態が町に現れたのは近世の初期である。京都で始まったその流れは、やがて江戸・大阪に広がり、豊かな書物世界を形成した。本屋は出版だけでなく、書籍の流通に多面的にかかわった。とりわけ、そこに古本の売買が大きく寄与したことを本書で強調したい。その背景には書籍のもついち「多品種少量生産」という特殊な商品的性格が関係している。〉

なにはともあれ、〈それまで書籍を求めようとすると、その所有者を見つけて借りるか写すかして対応せざるを得ず、容易なことではなかった。そこへ本屋が「こんな本はいかが」とばかりに持参して来るだけでなく、町を歩けば入手できるようになった。それはたしかに重宝なことだといえよう。〉という慶長20年(1615年)の土御門泰重の日記への言及から序章の最初の項目(『町の本屋出現』)は展開していく。今日、本を自由に入手できること、「重宝な」本屋、古本屋のことを感謝しつつ読み進めたい。

2019年3月19日にレビュー

https://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-07-28


メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

メディアの展開 - 情報社会学からみた「近代」

  • 作者: 加藤 秀俊
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 単行本



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