「中国奇想小説集: 古今異界万華鏡」 翻訳:井波律子 平凡社 [文学・評論]
今、まさに、うってつけの本
中国の六朝、唐、宋、明、清代の「奇想小説」の選りすぐりが掲載されている。解説も秀逸。
翻訳者:井波律子先生はいう。〈本書に収めた全二十六編のそれぞれの目からウロコ、奇想天外な作品を通じて、時代の経過とともに少しずつ変化してきた中国志怪小説の流れを具体的にたどりながら、中国的な奇想万華鏡の世界を楽しんでいただければ、ほんとうにうれしく思う。長きにわたり、中国の多くの文人たちにとって、事多き現実にうんざりし、「この世の外ならどこへでも」という気分になったとき、奇想小説を書いたり読んだりするのが、何よりの「消遺:シャオチェン(気晴らし)」だった。現実社会に問題が山積しているのは、いずこであれ昔も今も変わらない。ここの収めた粒よりの中国奇想小説群が、「今ここに」練りあげられた「気晴らし文学」として、いきいきと甦ることを願うばかりである。(「あとがき」)〉
その井波先生ご自身、「私は昔から中国の奇想小説が好きで、おりにつけ読み、・・・」と記している。なるほど、そうした読書体験のなかでの選りすぐり、粒よりが、本書で紹介されているのだと思う。短いもの長いものいろいろであるが、皆、読んでいて、スーッと惹きこまれる。そういう作品ばかりだ。
中・高生時代、芥川龍之介を通して『聊斎志異』を知ったが、その粒よりに、本書をとおして初めて触れることができたのも嬉しいことだ。
〈事多き現実にうんざりし、「この世の外ならどこへでも」という気分になったとき〉に読むとイイと言う。今、まさに、うってつけの本といえる。
2019年3月13日にレビュー