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記憶術全史 ムネモシュネの饗宴 (講談社選書メチエ) 桑木野 幸司著 [人文・思想]


記憶術全史 ムネモシュネの饗宴 (講談社選書メチエ)

記憶術全史 ムネモシュネの饗宴 (講談社選書メチエ)

  • 作者: 桑木野 幸司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


洪水のように押し寄せる知識情報と格闘する点で参考になる

タイトルに、記憶術「全史」とあるが、「本書が主なターゲットとするのは」、記憶術が「華麗な復活を遂げ」た「ルネサンスあるいは初期近代(15~17世紀初頭)と呼ばれる時代」におけるそれである。

ルネサンス期、古代ギリシャ・ローマの古典的名著が印刷出版され、教養人がそなえるべき知的スタンダードが形成され、自然科学や航海術が発達してなされる新発見、それらの知見を論じた学術書、お手軽な通俗文学の流行、時事問題を速報するニュースメディアの萌芽、突如出現した情報洪水・・・。

「いつの時代も情報を制覇したものが世を支配する」。知識情報の洪水、爆発的な増大、それらを蒐集整理し活用できなければ、(もとより勝ち目のない戦いではあるが)支配者どころか奴隷となる。知識情報と格闘する点で、当時は、今日と対応する。それゆえ、当時の人々の労苦は、今日参考になる。

紙が潤沢に手に入り、記録することによって、アタマに外に記憶媒体をもつことができるようになる。印刷術が発明され、印刷された書籍を安価に入手できるようにもなった。今では、電子デヴァイスの中、外部の(クラウドなど)仮想空間に知識情報を置いておくこともできる。人は安心して忘却できるようになった。自分のアタマはカラッポにしておいて、検索し呼び出せばそれら忘却した知識情報を使いまわしできもする。なんと便利になったことか。

ところが、古代、中世の人はそうはいかない。それで工夫する。術を設ける。アタマの中に架空の場所を設け、その場所に記憶したい物事を置いていく。想起しやすいように、置いた物事のイメージを増強賦活させる工夫をする。そして、それを順にたどって弁論などに用いた。そうした営みが繰り返される中、ルネサンス期には、百科事典なみの情報量を、アタマの中に置く工夫もなされる。それを図示するなら(実際そのようなイラストが残されているのだが)、カテゴリー分類してツリー状に配置したモノやフローチャートのようなモノに近くなる。

年齢とともに衰えてきた記憶力を増強するにいいだろうと本書を手にした。記憶術は有効だろうと思ったのだ。しかし、術を身につける際、それ以前に役立つ鍵のようなものを本書をとおして知ることができたように思う。

馥郁とした文章である。単なる学術論文でなく、文学的芳香を放つている。ユーモアも多分にある。嗅覚と記憶は深くかかわると聞く。本書のエッセンスが記憶に自然と留まるといいのだが、くり返し読む必要があるだろう。また、くり返し読むほどにじわじわ得るものがあると直観する。

2019年2月18日にレビュー

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https://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2017-03-17


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  • 発売日: 2016/02/01
  • メディア: 単行本



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  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
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  • 作者: ウィリアム・パウンドストーン
  • 出版社/メーカー: 青土社
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