DARPA秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇 シャロン・ワインバーガー著 光文社 [世界史]
事実は、複雑だ・・・
インターネット技術が軍事開発のおこぼれであるように聞いてきた。DARPA(国防高等研究計画局)が、開発したもので、今日われわれが恩恵を受けているものはまだまだある。驚きである。
映画『遠い空の向こうに』(原題:ロケットボーイズ)を見たとき、ソ連の打ち上げたスプートニクが当時の人々にいかに衝撃的なものであったかを知った。本書でその点を再認識した。〈スプートニクの打ち上げはアメリカじゅうでヒステリーを引き起こし、早急な対策を求める国民の声が高まった。そこで、ドワイト・アイゼンハワー大統領は1958年初頭、内輪揉めのあいだにソ連に宇宙開発のリードを許してしまった軍に代わり、新たな宇宙開発の中央研究機関を設立することを承認した。こうして誕生した「高等研究計画局(ARPA)」は、アメリカ初の宇宙機関であり、NASAの8カ月前に設立された。1972年には「国防(Defense)」の頭文字である「D」を冠して「DARPA」と改称され年間予算30億ドル規模の機関へと成長し、今ではスペースプレーンからサイボーグ昆虫まで、数々のプロジェクトを進めている(「プロローグ 銃とカネ 1961」p20〉。
そのDARPAにまつわる人物、その他もろもろについての歴史が本書に展開する。それは、人類のこれからについて考えさせるものでもある。軍事開発に熱心などと聞くと、戦争にむらがり利益をむさぼるイヌのような扱いがなされるが、言わばイヌによるイノベーションが多くの恩恵をもたらし、事実そのおこぼれに預かっていることを知ると複雑な気持ちになる。
翻訳者はいう。「本書の物語は決して小説のように整然としているわけではないし、出来事と出来事の因果関係が明確なわけでもない。読めば読むほど何が正しいのかわからなくなってくる部分もある。でも、事実というのはえてしてそういうものかもしれない(訳者あとがき)」。そういう物語として、読みかつ考えることのできる本だ。
2018年12月26日にレビュー
ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)
- 作者: アニー・ジェイコブセン
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2017/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
遠い空の向こうに[AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- メディア: Blu-ray