感情とはそもそも何なのか:現代科学で読み解く感情のしくみと障害 乾 敏郎著 ミネルヴァ書房 [心理学]
感情とはそもそも何なのか:現代科学で読み解く感情のしくみと障害
- 作者: 乾 敏郎
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2018/09/20
- メディア: 単行本
たいへん中身のツマッタ大物だ
感情を「現代科学で読み解く」というので、実験をとおして喜怒哀楽とはどのようなものか説明する基礎心理学の内容かと思いつつ(たぶんツマラナイであろうけれど新刊であるので覗いて見ようといった程度の興味で)手にした。ところが実際は、たいへん中身の詰まった(ツマッタ)本であることに驚いている。
感情とちかい言葉に情動があるが、本書では「情動は生理的反応、感情はそれに伴う主観的意識体験」と説明される。そして、「感情=情動+原因の推論」という式が出ていて、それは次のように言い換えられている。「感情は内臓の状態とその状態変化が生じた原因の推定の2つの要素によって決まる。・・」。
「推論」、「推定」とあるが、次のような説明もある。「自己の内臓状態を理解することによって感情が作り出される。脳は遠く離れた内蔵状態を正しく理解する必要がある」。その際に、脳は、自律神経を通じて送られてくる信号から内臓状態を、さらには、内臓状態を変化させた原因を、「推論」する必要がある。それら「推論」「推定」はヘルムホルツの無意識的推論とよばれる機能だ。
感情と内臓、そして脳がふかく関与することは第1章で、「身体の状態を一定に保つしくみである」ホメオスタシスと「環境変化に対応する」アロスタシスから論じられる。環境からの刺激に感覚・運動・自律神経等を介して身体内部(内臓)と脳との間でやりとりが行われる中で感情が発生していく様相が示される。そして、その際に、「予測」という考えが導入される。それは、「環境変化が起こりそうだと予測された場合には、将来に起こり得るホメオスタシスの混乱を回避するために、ホメオスタシスの設定値の変更を先に行う。環境の変化に対応できるように、身体の状態を準備する」アロスタシスとの関係でである。
抜粋しつつだいぶ荒っぽくひどいマトメを記したが、脳科学、認知科学、身体論など興味をもって読んでこられた方にとっては、垂涎の本であることは間違いない。最近はやりのマインドフルネスの理解にも役立つし、うつ病や統合失調症などの精神疾患の理解にも役立つ内容だ。
生半可な理解しかないにもかかわらずレビューを記したのは、ぜひ手にとって読んでみて欲しいからである。ハンドブックといった体裁の書籍ではあるが、たいへんなオオモノだと直観する。
2018年11月27日にレビュー
脳の大統一理論 自由エネルギー原理とはなにか (岩波科学ライブラリー)
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2021/05/27
- メディア: Kindle版