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『在日異人伝』 高月 靖著 バジリコ [日本史]


在日異人伝

在日異人伝

  • 作者: 高月 靖
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2018/07/27
  • メディア: 単行本


読みやすく、かつ、たいへん読み応えのある書籍

「在日」と聞けば、フツウ日本において「在日」ドイツ人、在日ロシア人などを意味しない。多くの人の思いに「在日」のあとに浮かぶのは、韓国、あるいは朝鮮にちがいない。本書を読むと、単一民族とされる日本に住まいするために、文化のハザマに苦しむ彼等の姿を見ることになる。日本では、アメリカ合衆国などの多民族国家とは異なり、ドイツ系アメリカ人、ロシア系アメリカ人という風に、自分の民族的・文化的アイデンティティを自覚しつつ、また、他者からソレを許容されてソノママでいることはむずかしい。日本においては日本の文化の中に浮遊するあくまでもマイノリティーに過ぎない。そして、同化を求められる。そうしなければ、生きていけないと感じられる。たいへんな圧力にちがいない。

本書でいう「異人」について著者は記す。〈「異人館」といった言葉が示す通り、日本語での「異人」は外国人を指すことが多い。また平均や主流からの逸脱を示唆する字面は、ネガティブなイメージも漂う。だが「異人」が持つ本来の意味は、すぐれた「異才」「異能」の持ち主といった肯定的なニュアンスも含んでいる。 / 本書はそんな「異人」たちの足取りに焦点をあてた。〉

著者はまた「在日」について、次のように記している。〈「在日」という言葉も「在日華僑」「在日米軍」など多様な層を含むが、ここでは朝鮮半島にルーツを持つ人々に絞っている。 / もちろん「在日韓国・朝鮮人」「在日コリアン」と呼ばれる人たちも一様ではない。自身や親の国籍ないし出生地、またそのルーツに対する考え方も百人百様だ。だがここに取り上げた人々の生き様はみな、日本という環境とその近現代史を写す鏡になっている〉。

本書では、「百人」は取り上げられていないが、たしかに「百様」であることが分かる。そして、その「異才」「異能」のひとりひとりを通して、読者は、日本という環境とその近現代史を「在日」をめぐって改めて悟り知る機会となる。個々の人々について記される前に、〈「噂」の背後に横たわる歴史〉と題する序章(見出しは「焼肉店「食道園」に通ったセレブたち」「「疑惑」をめぐる論争」「「国民的歌手」の条件」「帝国臣民に組み入れられた朝鮮人」「渡日者の急増と労働市場」「民衆蜂起の背景」「「不逞朝鮮人」に対する視線」「労働運動と「親日派」」「積極的に進められた同化政策」「朝鮮人の労務動員」「船に乗らなかった人々」「平和条約国籍離脱者」「特別永住者と帰化者」)が置かれている。個々の「異人」を記す中でも、その背景的環境・歴史が示される。全体に、読みやすく、かつ、たいへん読み応えのある書籍だ。

2018年10月23日にレビュー

日本コンプレックス

日本コンプレックス

  • 作者: 高月 靖
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2019/02/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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