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『魔女・怪物・天変地異(筑摩選書)』 黒川 正剛著 [人文・思想]


魔女・怪物・天変地異 (筑摩選書)

魔女・怪物・天変地異 (筑摩選書)

  • 作者: 黒川 正剛
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「好奇心」評価の変遷と近代的精神

「驚異」と「好奇心」が本書のキーワードになっている。それらは、知識習得と蓄積のエンジンと言っていい。その歴史を古代に遡って戻ってくるといった内容だ。本書副題にある「近代的精神はどこから生まれたか」を手っ取りばやく知りたければ、最終章を読めばいい。しかし、やはり最初から読んでいった方が、人類の精神史を辿り、たどり着いた達成感を持てる。

その旅、道行たるや迂遠である。前4世紀のアリストテレスの脅威観について記される。「驚異することによって人間は、(・・・)知恵を愛求し(フィロソフェイン・哲学し)始めた(「形而上学」)」の引用もある。1世紀・ローマの学者プリニウスの著作『博物誌』から、自然と脅威について示される。それは、「約1500年後の近世の驚異関係文書」の「内容と酷似して」「その影響の大きさを示す証左である」の記述もある。しかし、その『博物誌』においてプリニウスは、インドとエチオピアを混同したり、今日も実在する「博物」(人や動物など)を「怪物」のように描いている。伝聞と想像力がそうさせたようだ。

その影響のもとに西暦4世紀のアウグスティヌスも置かれ(その「知識」を受け入れ)ていたことが示される。しかし、アウグスティヌスは、好奇心、「単なる知識欲」を非難されるべきものとみなす。それは聖書・創世記のエデンの園でエバが蛇(悪魔)にたぶらかされるキッカケとして捉えられた。また、「高慢」とも関係づけられてのことだ。さらには、「あくなき好奇心の塊」のような人物でありながら「好奇心断罪派」であった旅行記作家アンドレ・テヴェ(16世紀)のこと、「近代外科学の祖」アンブロワーズ・パレ(16世紀)のことなど記されていく。またさらに、「降霊術師」「男色家」で悪評高かったファウスト博士の話もでる。魔女狩り絶頂期(1580年代末)に高評を博した『ヨハン・ファウスト博士の物語』は、ファウストを「男性の魔女」、貪欲に知識を求める好奇心の持ち主として描き、そのイメージを構築した。魔女も魔術師も「神の定めた人間が知ることを許された分限を超える越権行為とみなされていたわけである。それは悪魔の領域に入り込むことにほかならなかった」の記述もある。そして、「近世ヨーロッパにおける近代的学問の展開に多大な役割を果たし、近代科学の方法を確立し、それによって自然を支配することを主張した」フランシス・ベイコンらの話となる。

全体の内容を煎じつめれば、悪徳と見なされた好奇心が称賛すべきものと見なされるようになる変化の過程・歴史が示されていると言っていいと思うが、本書の醍醐味は、その過程そのものにある。よくもこんなツマラナイことを「知識」と称していたことかと驚嘆する。どれほどヒドイものかはご覧いただければ分かる。そういう意味でも読むことをお勧めしたい。それは21世紀の今日、身の回りに「怪物」や「魔女」をうみ出さないための助けとなるにちがいない。

2018年10月16日にレビュー

子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力

子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力

  • 作者: イアン・レズリー
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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