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視覚心理学が明かす 名画の秘密 三浦 佳世著 岩波書店 [心理学]


視覚心理学が明かす 名画の秘密

視覚心理学が明かす 名画の秘密

  • 作者: 三浦 佳世
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/07/14
  • メディア: 単行本


絵画(だけでなく、人間の諸事象)の見方・観察力が、洗練されるように思う

アートの本というより心理学の本といっていいだろう。こんにち視覚心理学、認知心理学が明らかにし、明らかにしつつある現象やら法則やらを、とっくの昔から絵描きたちは自分の作品に応用してきたことが明らかにされる。作家たち自身、明瞭に理解し言語化できなかったであろうゆえに「秘密」であったことが明瞭にされていく。これを読んで絵画(だけでなく、人間の諸事象)の見方・観察力が、だいぶ洗練されるように思う。分厚い本ではないが、お腹いっぱいになった気分だ。

岩波の『図書』に連載されたものだという。エッセイとしても秀逸だ。専門的知識がおおく披瀝されていくが、学者臭くない。未解決の問題は未解決として、読者に投げ出してもいる。無責任というのでなく、それが将来明らかにされるであろうことへの期待を呼び起こす。研究者としてだけでなくエッセイストとしてこれから活躍されるだろうし、活躍してほしい。そう思わせる著作だ。

2018年10月10日にレビュー

以下は、『目次』(カッコで括った中の言葉は、その項目で紹介された心理学用語など)

Ⅰ右か左か、それが問題だ
1 フェルメールの日常・レンブラントの非日常(「上方光源」の仮説)
2 キリコの「どこか変」なわけ(線遠近法)
コラム1 西洋の左・東洋の右
3 グレコとクリヴェッリの聖と俗(ダニエル・カササントの研究:「利き手側を肯定的に評価する」)
4 マルティーニのグイドリッチョと時間の矢(西洋では「一般に時間は左から右に流れる」)
コラム2 右向きの顔、左向きの顔

Ⅱ 平面に奥行きとリアリティを感じる
5 ピエロ・デッラ・フランチェスカの不思議な時空間(ピエロは数学者でもあり、彼の『遠近法論』はダ・ビンチらに理論的基礎を与えたとされる)
コラム3 ゴッホの歪んだ部屋(英眼科医の考案した「エイムズの部屋」)
6 エッシャーの循環する階段(錯視図形「シュレーダーの階段」「ペンローズの三角形」)
7 フェルメールのちょっとピンぼけ(「カメラ・オブスキュラ」、遠近法からの逸脱、複数の消失点)
8 本城直季のヴァーチャル都市(写真の「ぼけの勾配」
コラム4 トロンプ・ルイユの勝敗

Ⅲ ないはずの輪郭とかたちを見る
9 仙厓の心の観月会(「指月布袋画賛」、「主観的輪郭」「錯視的輪郭」、「指さし」理解人間だけ)
10 抱一の明るい満月(「クレイク・オブライエン現象」「コーンスウィート錯視」)
コラム5 シニャックのマッハ・バンド(エルンスト・マッハが発見した帯が名前の由来)
11 ダリ・クローズ・若冲のダブルイメージ(D・ネイボンの研究、「寄せ絵」
コラム6 ルドンの幻想とパレイドリア(「レビー小体型認知症」)
12 安田謙のスクラッチ(「元型」、「図地反転」、デビッド・マーの視覚の「計算理論」)

Ⅳ 色と質感の不思議に迫る
14 モネの大聖堂とザ・ドレス(「色の恒常性」「エーデルソン錯視」、セシリア・ブリースデイル『ザ・ドレス』、「インテルミラノ錯視」)
コラム7 デュフィのはみ出す色(「残像」「視覚的持続」)
14 眩しさを描くラ・トゥール(「視覚脳」、「グレア効果」)
15 ライン川上流地方の画家とクレーの透明(『天国の庭』、「逆遠近法」「透明図法」「形の恒常性」、「透明視に関する本吉勇の研究」)
コラム8 マチスの赤い部屋(視細胞の反応)

Ⅴ 静止画に動きと時間を感じる
16 ショーヴェ洞窟の重ね描きからリヒターの横ブレまで(「表象的慣性」、「動き筋(モーション・ストリークス)」
コラム9 キース・ヘリングのモーション・ライン
17 ホックニーのフォト・コラージュ(「表現の技法」でなく「視覚の技法」、「プレディクション」、時間研究者エルンスト・ベッペル)
18 ヴァザルリの明滅・ライリーのゆらぎ(「オプ・アート」「オプティカル・イリュージョン」「ハーマン・グリッド」
コラム10 絵画の中の過去・現在・未来

Ⅵ よさと魅力のわけをさぐる
19 ポロックの「でたらめ」(「フラクタル次元1.3~1.5、ユング「創造における思考停止」)
20 モランディの「よい眺め」(ポール・ライトとカロライン・ニックス「よい眺め(good view)」「スリークウォーター効果」)
コラム11 光琳のリズム(能の「序破急」)
21 伊藤若冲と草間彌生への背反感情(「評価性」「ヘドニックトーン」「ポジティブ感情」「陰性残像」「トライポフォビア」)
22 カルパッチョと春信の共視(「視線方向と絵の印象」、小津映画の共視の構図(視対象のない横並びの構図、エリザベス・マインズ)
コラム12 マネの視線と鏡の空間(「フォリー・ベルジュールのバー」、自己認識)


観察力を磨く 名画読解

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  • 作者: エイミー・E・ハーマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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