『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』 三田 一郎著 講談社 ブルーバックス [科学一般]
科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)
- 作者: 三田 一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/06/20
- メディア: 新書
信仰の根拠として利用できる
著者は物理学者(専門は素粒子物理学)であると同時に「カトリックの聖職者」であるという。本書(特に第1、2章)には、「三位一体」など聖書の教義についての簡単な解説と著者の態度について記されている。評者はそれに与するものではない。つまり、その見解を聖書の教えるところとして受け入れない。
しかし、本書は、同じく聖書の「神」を信じる立場にあるものとして、たいへん評価できる。なぜなら、「神(創造者)」を信じると主張する、その根拠を本書は提供してくれるからである。20世紀、月に人間が実際に立つ科学の時代になって、ウサギと「神」について語るのは気恥ずかしいもののようになってしまった。しかし、それでも(ウサギは別として)〈「神(創造者)」はいる〉と主張するからには、その根拠が必要だ。根拠なしでは、妄想を抱いた狂人のたぐいになってしまう。しかも、本書は、その根拠として、現代科学の最先端(本年3月14日に亡くなったホーキング博士が、死の直前10日前に発表したインフレーションに関する論文)に言及してもいる。
著者は、コペルニクス、ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルク、ディラック、ホーキングを章に立て、彼らと「神」との関係について、さらに、カトリック教会(ローマ法王庁)との関係について論じる。偉大な科学者たちは、自分の信仰をさまざまなカタチで表明してきた。一見、無神論を奉じているようであっても、実はそうではないと解釈することもできる。著者は、その辺をあぶり出しもする。
多くの逸話が取り上げられる。たとえば、有名なものでは、ニュートンが作らせた精巧な太陽系の模型を、誰が作ったのだと尋ねる無神論者の友人に、誰がつくったのでもない、と答えて、友人の抱く考えの愚かしさをニュートンが指摘したという話(p125,6)も取り上げられている。ほかにも、上記科学者らと同時代の科学者たち(たとえば、ガリレオとジョルダ-ノ・ブルーノ)だけでなく、彼らと関係した教会の主だった人物(たとえば、ガリレオと親しかったバルベリーニ枢機卿やヨハネ・パウロ2世)ついても語られる。
巻末に多数の参考文献が出ている。それらを確認しながらの著作は、たいへん労多いものであったと思う。その実を、自分の信仰の根拠として利用できることの感謝を表したい。
2018年8月20日にレビュー