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『シュメール人の数学: 粘土板に刻まれた古の数学を読む』 室井 和男著 共立出版 [科学一般]


シュメール人の数学: 粘土板に刻まれた古の数学を読む (共立スマートセレクション)

シュメール人の数学: 粘土板に刻まれた古の数学を読む (共立スマートセレクション)

  • 作者: 室井 和男
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2017/06/09
  • メディア: 単行本


古代ハスを開花させる以上の仕事

古代の遺跡から発掘されたハスの実が、2000年の時を隔てて、育成され開花したなら、ニュースになる。新聞、ネット上に写真も広まり、おおきな話題となって、それを見に多くの人が出かけることになる。

著者の仕事は、それに相当する話題性があると思うが、残念ながらニュースにならない。古代ハスの開花ほどに人目を惹くものではない。それでも、「紀元前2600年ごろから紀元前2000年ごろまでのシュメール人の数学の概要を一般読者に伝える(『はじめに』)」本書は、埋もれていた古代の数学の実を、衆目の面前で開花させたようなものだ。

残念ながら、評者は本書で展開されるシュメール人の数学の全貌詳細を知って、著者の解明した仕事の価値を喧伝する力はない。それでも、塾の数学講師の傍ら、古代の数学に関する論文を読み、それに飽き足らず、みずからアッカド語、シュメール語を独学し、古代の人々が現代人に優るとも劣らない知的(数学的)能力を持ち合わせていたことを明らかにしたことは、評価できる。数学の研究以前に、粘土板に刻まれた楔形文字やそれ以前の文字を解読するための格闘があったのである。

本書には、著者の研究の経過も示されている。それは、学究としての生き様と言ってもいい。今、研究者とは、こういう人のことを言うのだろうなと感嘆している。本書コーディネーターの中村滋氏は、著者を『古代の精密科学』の著者オットー・ノイゲバウアーの「後をついで世界的なバビロニア数学史家になった」と書き、さらに、「その後の解読の成果の一部が『数学史』とこの「シュメール人の数学」に結実した」と記している。

時間をかけさえすれば、本書に展開されている著者の論理を追って『シュメール人の数学』の実と花を味わうことができると直観する。若い人は、どうぞ挑戦してください。

2018年8月19日にレビュー

バビロニアの数学

バビロニアの数学

  • 作者: 室井 和男
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2000/03
  • メディア: 単行本


数学史 ―数学5000年の歩み―

数学史 ―数学5000年の歩み―

  • 作者: 中村 滋
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2014/11/22
  • メディア: 単行本



永久(とわ)に生きるとは―シュメール語のことわざを通して見る人間社会 (バウンダリー叢書)

永久(とわ)に生きるとは―シュメール語のことわざを通して見る人間社会 (バウンダリー叢書)

  • 作者: 室井 和男
  • 出版社/メーカー: 海鳴社
  • 発売日: 2010/07/01
  • メディア: 単行本



ノアの箱舟の真実──「大洪水伝説」をさかのぼる

ノアの箱舟の真実──「大洪水伝説」をさかのぼる

  • 作者: アーヴィング・フィンケル
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: 単行本


以下、『シュメール人の数学』中のコラム「Box 6 プリンプトン 322 の解明へ」から抜粋

(前半省略)

2006年ごろから、私は再びプリンプトン 322 に少しずつ取り組み始め、この粘土板上の数表のつくり方がわかった 2007年の夏のある日、朝から手計算で数表上のすべての数字を再現しようと机に向かった。汗だくになって計算を続け、少し涼しくなってきた夕方になってやっと終了したとき、私は思わず頭を下げた。この粘土板を書いた名も知らぬ書記は明らかに私より数学的資質が上であり、いっしょに机を並べて勉強したらとても敵わないと思ったからである。この研究の成果は、次の本に出ている。中村 滋『数学の花束』 岩波書店、 2008年 p216~230


数学の花束

数学の花束

  • 作者: 中村 滋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/11/26
  • メディア: 単行本



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