SSブログ

『伝奏と呼ばれた人々:公武交渉人の七百年史』 ミネルヴァ書房 [日本史]


伝奏と呼ばれた人々:公武交渉人の七百年史

伝奏と呼ばれた人々:公武交渉人の七百年史

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2017/12/30
  • メディア: 単行本


それにしても、良い視座を見いだしたものだ・・・

「伝奏(テンソウ)」と称する人々の「橋渡し役」に興味を持った。何かのはざまに身をおくと、身を置いた両側にあるもの双方それぞれがいろいろ見えてくるものである。場合によっては身を引き裂かれる思いをして認知することもあるにちがいない。本書の場合、「公武交渉人」がテーマであるから、その両脇にある、公家と武家の双方が見えてくることになる。また、それに限らず、その視点・視座に注目するなら、個々の歴史事象の見え方もおおいにちがってくるであるように思ったのである。

本書の目的については、次のようにある。〈 天皇・朝廷は、時の政治権力である武家とどのような関係を持ち続け、「武家の時代」を生き抜いていったのか。本書は、朝廷と武家政権が交渉をおこなう際に、朝廷側の窓口となった役職の歴史を通覧するものである。(「序章 武家と公家をつないだ人々」)〉

その役職については、次のようにある。〈交渉人たる公家の役職名は、史料上では「関東申次」「武家執奏」「伝奏」「武家伝奏」と表記される。おおむね「関東申次」は、鎌倉時代の中期(寛元4年、1246)に成立したと見なされている。その後、南北朝期には「武家執奏」、室町時代に入って「伝奏」と表記されるようになり、江戸時代にいたると「武家伝奏」という表記も見られるようになる。このように史料上での表記は時代により異なるが、いずれも朝廷ー武家間の意思(意志)疎通をはかる交渉人、連絡係、仲介者という語義であることをあらかじめお断りしたい〉とある。

本書は、その目的にあるように「通覧」がおおきな特徴となっている。歴史区分ごとに扱うのではなく、区分を取り払って通時的に扱う。とりわけ、時代とともに、その名称が揺れうごいてきた「橋渡し役」「公武交渉人」について考察するにあたって、その取り扱いはたいへん有効であるにちがいない。

それにしても、鎌倉から江戸幕末維新期までの武家の時代にあって、「影の薄い存在と見なされていたきらいがある」「姿の見えにくい天皇・朝廷」のありようを探るうえでの良い視座を見いだしたものだと思う。(以下、「目次」章立て)

序章 武家と公家をつないだ人々 第Ⅰ部 鎌倉時代ー関東申次の誕生と活躍(第1章 関東申次成立前史 第2章 関東申次の成立 第3章 関東申次の展開と終焉) 第Ⅱ部 南北朝・室町時代~戦国・織豊期ー関東申次から武家伝奏へ (第4章 動乱期の公武関係を支えた公家たち -武家伝奏の誕生 第5章 足利将軍家に仕えた公家たち-戦国期の武家伝奏と昵近衆の活躍 第6章 織田・豊臣の武家伝奏) 第Ⅲ部 江戸時代ー近世武家伝奏の活躍とその終焉 (第7章 近世の武家伝奏の登場 第8章 近世中期の武家伝奏の活動と幕府役人観 第9章 近世朝廷の武家伝奏から維新政府の弁事・弁官へ おわりに あとがき 人名索引

2018年4月3日にレビュー

幕末の天皇 (講談社学術文庫)

幕末の天皇 (講談社学術文庫)

  • 作者: 藤田 覚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/02/13
  • メディア: 文庫



nice!(1) 
共通テーマ:

nice! 1