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『コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から』 西原 智昭著 現代書館 [文化人類学]


コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から

コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から

  • 作者: 西原 智昭
  • 出版社/メーカー: 現代書館
  • 発売日: 2018/01/20
  • メディア: 単行本


読み物として単に面白いだけでなく、地球環境をめぐる世界の最前線に触れた印象

コンゴ在住日本人による、現地の自然を報告する本かと手にした。が、より深い内容である。読後感は、生き方を示す本という印象だ。モノのあふれた日本から遠く、モノに恵まれない国でまなんだ知恵というだけでなく、強烈に伝わってくるのは著者の真摯な生き方・生き様である。そして、その視座から見たゴリラ、マルミミゾウ、先住民(ピグミー)のこと、自然保護と開発、貨幣経済の弊害のことなどが示される。

京都大のフィールド研究の一環として現地に赴いたのち、係わるようになった自然保護活動、そこでは仕事のデキナイ人間の居る場所はない。密猟者に休みがないように、保護活動にも休みがない。そして、うっかりすれば、象や毒蛇に殺されかねない環境だ。実際、著者を乗せた飛行機は熱帯林に落ちそうになるし、著者はゾウの鼻にまかれて落とされたりもする。そうした現場でもみくちゃになりながら見たこと考えたことが記される。だから、データに基づくだけのお話しにはない迫力がある。

象牙消費量世界一の日本にいて、象牙を実際に利用しながら、象の密猟に憤る矛盾を実感させられる。熱帯林を開発・伐採した樹木をわが家に用いながら、開発を断罪する愚かさを悟らされもする。しかし、著者はただ単に「開発=悪」「保護=善」という図式で扱わない。供給国には供給国の、需要国には需要国の、それぞれの事情があるのだ。いまや貨幣経済の中に組み込まれてしまった先住民にとって、密猟は現金を手に入れるために“必要”なことでもあるのだ。そうしたことどもが、本書でつまびらかにされる。現場でもみくちゃになりながら考えた著者の思索は、こころに刺さるものがある。捕鯨の話しもでる。ヨウムの話しもある。動物園(の「行動展示」)、水族館(のエサ)の話題もある。日本のテレビ局から協力を求められたものの、断った話もある。

フィールドワークについて記された部分を引用してみる。〈 ぼくが若い院生だった頃、研究室はとても“おっかない”ところだった。ただ活気はあり、皆それぞれ自由に研究はできた。そしてぼくは一人アフリカに放り出された。基本的に誰も何も教えてくれない。先輩たちが問うてくることは研究の「動機」であり、大きな「目標」であった。何よりも重視したのは個々の細かいデータではなくフィールドへの覇気と野心であり、現地での純粋な「生の」経験や印象であった。 / 確かにその通りだと思う。自分の地に着いていない浅薄な経験談しか言えないなら、フィールドに行った価値などないと思う。日本にいる私はこうで、アフリカにいる私はこうなのよ、そうした分裂的な態度ではフィールドワークは成り立たない。フィールドには自分自身を100%持っていく場であり、それこそ全身で感じてきたこと、素直な自分が見て経験した「自己の反映」こそが意味を持つのである。ぼくはそんな中で鍛えられていった(「研究者のあり方と学校教育」)p216、217〉。

読み物としてもたいへん面白い本だが、著者が全身で感じてきた「生の」経験をとおして、地球環境をめぐる世界の最前線に触れた印象である。

2018年4月2日にレビュー

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

「未解」のアフリカ: 欺瞞のヨーロッパ史観

  • 作者: 石川 薫
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 単行本



アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

アフリカの老人 ― 老いの制度と力をめぐる民族誌

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



人類学者への道

人類学者への道

  • 作者: 川田 順造
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/09/01
  • メディア: 単行本



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