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『0円で生きる: 小さくても豊かな経済の作り方』 鶴見 済著 新潮社 [社会・政治]


0円で生きる: 小さくても豊かな経済の作り方

0円で生きる: 小さくても豊かな経済の作り方

  • 作者: 鶴見 済
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


お金がなくても「豊かな」暮らしを営むヒントが

マーク・ボイル著『無銭経済宣言』の焼き直し・日本版書籍かと思ったが、そうではない。著者はずっと「個人の生きずらさを減らすことが最も大事だ・・・と90年代の当初から言い続けている」。最近、政治学者の中島岳志氏が、東工大でおこなわれたシンポジウム『1990年以降の激動する社会と宗教を振り返る』で、90年代を象徴する3冊として選んだ中に、本書の著者:鶴見 済氏の『完全自殺マニュアル』が入っていた。評者は当時そのマニュアル本を恐る恐る覗いたが、具体的な方法・成功率などが網羅的に取り上げられていて、よく調べたなーと感心したのを覚えている。

そういう著者の問題意識や網羅的に調べる傾向が当該書籍にも現れている。『0円で生きる』方法として記されているものも、通り一遍ではない。以前、冒険家の大場満郎氏が東京ならばゴミをあさって生きていけると話していたが、本書には「ゴミを拾う時の注意」事項が17も挙げられている。

だが、やはりこの本の魅力は著者の問題意識の方だ。「今の日本では格差が広がり、お金のない人が増えるにつれ、終身雇用への願望が強まって、統計では昭和期よりもそれに肯定的な人が多い。 / もともとお金を使わない社会では、お金をもっていないことは何の問題にもならない。例えば、伝統的な社会の人々がお金をあまり使わないことを、一概に貧しくてかわいそうと見なすことはできない。けれどもお金への依存度が高い社会になるほど、それを持っていないことは致命的になる。そして日本の社会は、この依存度が極めて高い社会だ。 / ここからもわかるとおり、お金がない人が多いという貧困の問題への対策としては、二つの方向がある。ひとつには、賃金を上げさせ行政の支援を増やし、もっとお金が貰える社会にする方向だ。もちろんこれは必要だ。けれども、同時に社会のお金の依存度を下げることもまた大事なのだ。そして本書が取る立場は後者だ。・・省略・・もちろん最低限のお金はなければならないし、この本を読んだからといって、お金なしで暮らせるようになるわけではない。けれども、楽しみながら社会を変えていく方法がここには詰まっているはずだ(「まえがき」)」。

目次は 1章 貰う(無料のやり取りの輪をつくる) / 2章 共有する(余っているものを分け合う) / 3章 拾う(ゴミは宝の山) / 4章 稼ぐ(元手0円で誰にでもできる) / 助け合う(一緒にやれば負担が減る) / 6章 行政から貰う(もっと使える公共サービス) / 7章 自然界から貰う(無償の世界) となっていて、各章ごとに具体的方法が示されていくが、「この章のレクチャー」として色ちがいの紙を用いた部分に示される歴史・民俗・文化的記述も興味深い。主題だけあげると 1章:贈与経済とは何か? 2章:なぜ私有が行きわたったのか? 3章:捨てる問題と拾う人々 4章:市とお金と資本主義 5章:日本の「助け合い」とそのマイナス面 6章:再配分は富の偏りを正す 7章:自然界と「無償の贈与」 というものだ。お金がなくても「豊かな」暮らしを営むヒントが本書には詰まっている。

2018年2月28日にレビュー

脱資本主義宣言―グローバル経済が蝕む暮らし

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  • 作者: 鶴見 済
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/06/01
  • メディア: 単行本



無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法

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  • 作者: マーク・ボイル
  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2017/08/29
  • メディア: 単行本



森のムラブリ [DVD]

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  • 発売日: 2023/07/07
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