『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』 大矢 博子著 文春文庫 [読書案内]
脱帽です
著者「あとがき」によると「面白い時代小説を筆の向くまま気の向くままに書いていったら、なんと紹介した作家176人、取り上げた小説480作という数になってしまいました」とある。が、その後、担当編集者が出した正確な数は、「488作」。それにしても、たいへんな数である。そしておまけに、それらを「読みくらべ」て教示できるほどに読み込んでおられる。脱帽である。
評者はこれまで「歴史・時代小説」はまったくといっていいほど読んでこなかった。著者が「もはや宗教に近い」という「司馬御大」司馬遼太郎も、小説らしきものは『空海の風景』(芸術院恩賜賞文芸部門受賞作)だけである。それは著者が本書「巨匠を読む」で紹介している司馬作品のなかに入っていない。
本書は、評者のような「歴史・時代小説」にウトイ者にほど、有用なブックガイドとなりそうである。「縦横無尽」に駄洒落を多用しミーハーっぽく書いてはいるが、読みやすくするために編集者からの要請があってのことらしい。文章のスタイルはどうあれ、「読みくらべ」た中身はなるほどと首肯できるもので、「歴史・時代小説」への案内者として信頼していいように思う。
以下、すこし引用してみる。
「歴史小説を書くにはさまざまな史料を調べることが必要になるが、その過程で、どの史料を取り入れるかは作者の筆ひとつにかかっている。だから『この説をとったということは、あの史料がベースなのだな』という推理が可能なのだ。 / また、以前は定説だったものが、後で新史料が見つかって覆るというケースも多い。これは作家には責任のないところで、致し方ない。 /中略/ 史実は、史実だ。だがその史実をどう料理するかは書き手次第なのだと、『城塞』と『鳳凰記』、そして《真田丸》がそれぞれの技を見せてくれているのである。」(時代劇は楽しい! 〈忌みの名は。 対照的な二編の「方広寺鐘銘事件」〉から)
ちなみに本書は、文藝春秋「本のWEB」に連載したものに、「大幅に!加筆・再構成し、新たな項目や作家ガイドも追加して、ほぼ別物にな」っているという。巻末の索引は作品編と作家編に分かれ、作品索引は「長編・短編集」、「シリーズ作品」、「短編」に分かれて充実している。
2018年2月17日にレビュー