「ハルキ・ムラカミと言葉の音楽 」ジェイ・ルービン著 新潮社 [文学・評論]
超一級の「村上春樹論」
2006年12月3日にレビュー
イカニモ村上春樹についての本らしいポップな標題がついていますが、村上春樹についてのマジメな作家論・作品論であり、しかも、超一級のソレであると思います。
著者は、春樹の翻訳者であると同時に一緒にビデオを買いに行くほどの親しい友人であり、また、春樹文学の良い読者(ファン)のひとりでもあります。
当該書籍「はじめに」の中で、著者は「私の主たる目的は、私が村上の長編や短編を読み、翻訳し、作品が書かれた経緯を知るなかで味わった興奮をみなさんと分かちあうことだ」と記しています。
ジャズ喫茶のオヤジであった春樹が、神宮球場の外野席でビールを飲みつつ「僕にはたぶん小説が書ける。自分にはできる。その時期がきたのだ」と、天啓の如き思いを抱き、試合のあと文房具屋に行って万年筆と紙とを買い、店の仕事が終わったあと、毎日1時間か2時間、台所のテーブルに向かって、朝の3時か4時頃、ビールを飲みつつ書いた小説が幸運なことに79年度《群像新人賞》を取り、その後、作家として成長を遂げていく様子がよく記されています。
また、作家とともに作品もコノヨウに成長・発展していくものなのだということをよく教えてくれる著作でもあります。
村上春樹と春樹文学の総体を知るうえで、今得られる絶好の(そして「興奮」に満ちた)書籍であるように思います。