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『地図の進化論: 地理空間情報と人間の未来』 若林 芳樹著 創元社 [地理学]


地図の進化論: 地理空間情報と人間の未来

地図の進化論: 地理空間情報と人間の未来

  • 作者: 若林 芳樹
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2018/01/23
  • メディア: 単行本


デジタル時代の地図とその読み方

『地図の進化論』というので、地図の歴史・変遷をたどる本かと思った。もちろん、そのような内容でもあるのだが、評者なりにタイトルをつけるなら、「デジタル時代の地図とその読み方」となりそうだ。地図学の本で、それなりの専門性と難度はあるが、著者は親切に定義しつつ話を進めていくので、「地図が読めない女」でも読み解くことができると思う。(いま、女性の能力を侮ったわけではなく、本書で興味深く取り上げられ、かつてベストセラーとなった本のタイトルをここで引用したまで、ご容赦されたし)。たとえば、本書タイトル・副題にある『地理空間情報』とは「2007年に成立した地理空間情報活用推進基本法で公式に定められた用語で、空間上の特定の地点または区域の位置を示す情報、およびそれに関連付けられた情報を指す(「序章」)」とある。近年のICT(情報通信技術)の進歩により、GPS(全地球測位システム)衛星からの電波など用いて、目的地まで道順案内することが可能となった。要するにナビゲーションであるが、いかに時代が変わろうと、技術が進歩発達しようと、経路案内、道順案内の出発点は「現在地の確認」である。「ここはどこ」という問いに答えることである。「その問いの答えを導くのが地理空間情報である」と著者はいう。そして、定義に続けて、「本書のねらいは、地理空間情報と人間とを媒介する役目を持つ地図について、その進化の跡をたどり、将来の地理空間情報と人間との関わり合いを展望することにある」と述べる。

本書タイトルに難解さを感じ、「本書のねらい」を読んでピンと来ない方も、目次をみると興味をおぼえるにちがいない。実際の内容は、「言葉と地図」、「地図と文字の関係」を示し、「記号学」や「認知」能力や「思考」の問題などに触れるもので、(文字からなる読み物・書籍とは異なる)「地図」を読むとはいかなる営為であることかが見えてくる本でもある。評者は、デジタル時代の地図の読み方を教授され、新しい世界が拓けていくような思いでいる。

2018年2月16日にレビュー

目次は以下のとおり

序章 いまどこ・いまここ・ここはどこ (携帯電話が変えた道案内 / 緯度と経度で手紙を送る / 地図の饒舌さ / 言葉と地図 / 本書の構成)

第1部 地図の今昔 

第1章 地図の起源を訪ねて (古代人も地図を描く / 地図の進化から見えてくるもの / 地図と文字の関係 / デジタル化が変える地図 / 「原寸大地図」のパラドクス)

第2章 地図の万華鏡 (地図界の“カンブリア大爆発” / 紙の地図とデジタル地図 / 一般図と主題図 / 地図の力 / メルカトル図法の復権 / 世界の見方を変える地図)

第3章 地図の読み書き (デジタルでも変わらない地図読みの基本 / 地図の記号学 / 地図でウソをつく方法 / 罪のないウソ / 罪深いウソ / 地図の政治性 / 地図にだまされないために)

第2部 地図をとおして知る世界

第4章 「地図が読めない女」の真相 (地図を回したがるのは女性? / 空間認知に男女差はあるか? / 空間認知の男女差の由来 / 方向オンチは女性に多いか? / 地図が読めれば迷わないか? / 女性のための地図 / 地図表現の先祖返り)

第5章 頭の中にも地図がある (「脳内GPS」の仕組み / 地理的知識と教育 / 手描き地図からみた認知地図の特徴 / 自己中心的世界像の由来 / 歪んだ認知地図 / ルートマップからサーベイマップへ / 広がる認知地図)

第6章 空間的思考と地図 (地図と空間スケール / 地図読解力の個人差 / 地図から得られる空間的知識 / 空間認知から空間思考へ / 地図で鍛える空間的能力)

第3部 地理空間情報と人間

第7章 デジタル化が変えた地図作り (地図作りの第2の黄金時代 / 地図のデジタル化とGISの登場 / 地理空間情報の構造 / GISにできること / みんなで作る地図 / ウェブ2・0時代の地図 / 隠れたバリアを見える化する / 地図のユニバーサルデザイン)

第8章 それでも世界の中心は私 (デジタル化で変わった地図の表現 / 利用者と対話する地図 / カーナビ進化論 / 地図はどのように使われているか? / タクシー運転手はなぜどこへでも行けるのか?)

第9章 デジタル時代の未来予想図 (グーグルマップのリテラシー / インターネットで狭まる視界 / 空間認知の「グーグル効果」 / 「ブラタモリ」がひらいた地図の楽しみ方 / 「ブラタモリ」と空間的思考 / 人工知能に奪われる地図作り / 人工知能は地図を読めるか?)

終章 進化する地図と人間の未来  / あとがき / 文献一覧 / 索引



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  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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