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『エルドラードの孤児』 ミウトン・ハトゥン著 武田千佳訳 水声社 [文学・評論]


エルドラードの孤児 (ブラジル現代文学コレクション)

エルドラードの孤児 (ブラジル現代文学コレクション)

  • 作者: ミウトン ハトゥン
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2017/11/20
  • メディア: 単行本


夢と現実が物語りとして織り成されて

著者 ミウトン・ハトゥンは、「賞の蒐集家との異名もと」る「現代のブラジル文学を代表する作家」。

本書(原著2008年発行)は、各国の神話を現代によみがえらせることをコンセプトにした『新・世界の神話シリーズ』(スコットランド、キャノンゲート社)のために依頼され執筆したもの。著者が選んだ神話は「エルドラード」。2015年には、映画化されているという。

著者は巻頭エピグラフとして、カバフィスの「町」という作品を挙げ、次のように記す。「おれは別の土地に行く。ここよりもっといい町を見つける。・・おれが見るところは、おれの視線が届くところはすべて暗黒の廃墟となったおれの人生が見えるだけ」。そして、本書のなかで神話・伝説として取りあげられるイメージは「川底にあるもっといい世界」への期待であり、「川底に住むことを夢見る」こと、である。ブラジルの都市(19世紀の半ばから第二次大戦後にかけてゴム産業で盛衰する)マナウスとパリンチンス(作品中ではヴィラ・ベーラ)が作品の舞台となって、そこでの現実と夢が物語りとして織り成されていく。

その基調となる神話・伝説について語る祖父を思い出しながら著者は(「あとがき」で)次のように記している。「アマゾンの多くの土着民と川岸に住む人々は、昔、川や湖の底には豊かですばらしい町があると信じていたーそしていまも信じているー。社会的な調和と正義の模範があり、人々はそこで魔物として暮らしていると。彼らは水や森の生き物(たいがいはアマゾンカワイルカかスクリ蛇)に誘惑され、川底まで連れていかれ、祈祷師の仲立ちがない限りこの世には戻って来られない。祈祷師の身体や霊が魔法の町まで旅をし、そこの住人と話をして、うまく行けば、再びその人たちをこの世に連れ帰って来られる。 / 祖父は、何時間もその物語をし、私はそれに、その話術と芝居さながらの身振り手振りにひきつけられて聞き入ったのを憶えている。」

また、「謝辞」で、「このフィクションはインディオやインディオの文化に直接触れたものではないが、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・ジ・ カストロのエッセイ『野生の魂の非一貫性』を読んだことは、アマゾンのトゥピナンパ族を理解し、この小説について構想するのに重要だった」と書いている。たぶんその作品は、本書とおなじく水声社から出ている『インディオの気まぐれな魂』のことだろう。

そうした文化人類学的知識・経験を背景に書かれた本書からは、ブラジルの根っこを感じさせられる。ストーリーもミステリアスで上質である。映画化されたということだが、たいへん美しい作品に仕上げられているのではないかと、思う。

本書は「ブラジル現代文学コレクション」の一冊として刊行された、ということである。シリーズとして発行されていくもののようである。大いに期待したい。

2018年2月9日にレビュー

インディオの気まぐれな魂 (叢書 人類学の転回)

インディオの気まぐれな魂 (叢書 人類学の転回)

  • 作者: エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ カストロ
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2015/10/30
  • メディア: 単行本



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