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『小島信夫の文法』 青木健著 水声社 [文学・評論]


小島信夫の文法

小島信夫の文法

  • 作者: 青木 健
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2017/11/25
  • メディア: 単行本


襟を正して小島作品に当たるよう促される

1955年 『アメリカン・スクール』で第32回芥川賞を、1965年 『抱擁家族』で第1回谷崎潤一郎賞を受賞した小島信夫。本書は、一時期その編集者として接し、後に「小島信夫賞」の運営や選考にも係わり、「小島さんの10年余りの晩年、近くで濃密な時間を過ご」した詩人で作家でもある青木健による小島信夫とその作品に関する評論、エッセイを集成したもの。1995年から2017年までに新聞や文芸誌等に発表したもの。

評者は小島信夫のよい読者ではない。実のところ代表作の『抱擁家族』も読んではいない。それでも、森敦が『月山』を書きあぐねていたころ、『抱擁家族』の下読みをし、小島になんども書き直しを命じ、それに小島がへこたれずに応じた話、『抱擁家族』というタイトルそのものも森の提案であることなどを森富子著『森敦との対話』で読んでいた。また、保坂和志が小島とたいへん親しくしていたことも聞いていた。そんな関係で本書を手にした。

本書の内容は、目次に沿えば〈『抱擁家族』をめぐって〉から始まり、〈四十年後の『抱擁家族』 小島信夫×青木健〉という対談で終わる。はじめからずっと目をとおし対談を読むに至って、『抱擁家族』において小島は、自分の家族関係をモデルとして、アメリカナイズされていく日本での家族のあり方を考えていたのだな、それを終生追いかけたのだなと思った。また、いわゆる「私小説」ではないものの、モデルとなった個人にとっては、(もちろん著者自身もそうだが)たいへん犠牲をともなうものであることを知った。血が流されなければ犠牲ではない。多くの犠牲のうちに成った『抱擁家族』は、それゆえ今日でも十分読むに値する小説であるように直観する。

本書のタイトル『小島信夫の文法』は、小島信夫の文章作法に関するものだ。小島は基本的に「文芸の話題以外興味を示さ」ない人物だったようである。少なくとも著者の知るかぎりそうであったようだ。独り言のようによく言ったことは「一体、小説というのは何なんだろうね」だそうである。

以下、小島の文法についての記述をいくらか引用してみる。〈小島信夫ほど「解決する」ことに価値を置かなかった作家はいない。いつも、「現在」を問いつづけ、「問い」に対しては「答え」ではなく、新たな「問い」を、千石(英世)の用語を借りれば「複層」させることで自身の小説のスタイルを築きつづけた作家だった。〉 / 〈「君自身にとって解決済みのことは書く必要も意味もない。君自身にとっていつまでも謎であることだけを書きたまえ」・・・私の耳朶で生前の小島さんの声音が蘇える。〉

襟を正して小島作品に当たるよう促される書籍だ。

2018年1月19日にレビュー

【目次】
Ⅰ 『抱擁家族』をめぐって //Ⅱ 小島信夫の文法 ( 小島信夫の文法 / 「階段のあがりはな」について/ 未完の相貌/ 『抱擁家族』の時代 / 小島批評の魅力/ 小説の鏡としての演劇/ コジマの前にコジマなく…… / 小島信夫さんを悼む/ 裸の私を生誕させる文学)// Ⅲ 謎の人 ( 小島さんの「初心」/ 物語るということ / 追悼文の恐さ/ 笑顔の不在 / 小島さんの詩心 / 謎の人 / 『一寸さきは闇』の頃 / 小島さんの戦争体験 / 愛の記憶 / 小島信夫の思い出)// Ⅳ 四十年後の『抱擁家族』 小島信夫×青木健 / あとがき

小島信夫(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B3%B6%E4%BF%A1%E5%A4%AB


抱擁家族 (講談社文芸文庫)

抱擁家族 (講談社文芸文庫)

  • 作者: 小島 信夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/01/27
  • メディア: 文庫



森敦との対話

森敦との対話

  • 作者: 森 富子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/08/26
  • メディア: 単行本



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