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『絵本を深く読む』 灰島 かり著 玉川大学出版部 [児童文学]


絵本を深く読む

絵本を深く読む

  • 作者: 灰島 かり
  • 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
  • 発売日: 2017/11/14
  • メディア: 単行本


絵本と響きあう「身体」を備えた著者による「絵本をどう読むか」についての評論集

著者は2016年に亡くなった。本書はその遺著である。硬質の文章で絵本について解説がなされてゆく。その物語の構造を解き明かし、同様の物語のバリエーション、発展形を示していくのを面白く思った。その射程には『赤ずきん』のような古いものから、ずっと新しい最近のものまでが入る。

「はじめに」末尾で著者はいう。「・・・ストーリー運びを追うだけでは味わいつくせない細部の描写にこめたメッセージや遊びを豊かに受けとめるために、研究者もそれに響きあえる『身体』を備える必要がある。 / わたしは、現実世界に向きあうための『身体』には、たいした自信がないけれど、たっぷりどっぷり作品に浸る『読みの身体』には、いささか自信がある。 / さあ、ごいっしょに、身体ごと絵本の世界を楽しみながら、新しい絵本論のわき出る泉をさがしに出かけよう。」

絵本の読解には、ふつう以上の「身体」が必要とされる。大人の本とは異なり、絵本は「絵」と「文字」で構成され、そして、語り聞かせる際には「声」が関係し、また、語り聞かせる「場」所も関係してくるからだ。そうした、「絵本独自のありよう」をさぐるのが「この本の目的」と著者自身記しているが、まさに、そのような「身体」を鍛錬して身につけた方ならではの著作であるように思う。

「あとがき」で、鈴木晶氏が書いている。〈「絵本をどう読むか」についてまとまった評論を集めたのが本書である。・・略・・第1章から4章までいわゆる論文調で書かれているが、妻がもっとも得意としたのは第5章みたいな、読者に語りかける文体である。本書に収録されていない短い評論は、ほとんどそうした「おしゃべり文体」で書かれていて、妻の人柄が偲ばれるので、いずれ出版したいと願っている」。大いに期待したい。

2018年1月18日にレビュー

以下目次

はじめに 絵本論をさがして

第1章 成長を占う旅 少年の場合(1森へいく少年、その基本 / 2森へいく少年、その完成形 / 3森のさらにその先へいく少年 / 4心の奥の森へいく少年)

第2章 成長を占う旅 女の子の場合(1女の子はおつかいにいく / 2小さい母になる女の子たち)

第3章 ポストモダン絵本に登場する見えない友だち(1見えない友だち ジョン・バーニンガムの場合 / 2見えない友だち アンソニー・ブラウンの場合)

第4章 小さい友だち ビアトリクス・ポター論 (1ビアトリクス・ポター その「観察眼」と「頭痛」 / 2『ピーターラビット』の得意な魅力 / 3絵本作家から農場主へ)

第5章 絵本サロン 絵本サロンを開きます / サロン1日め シャーリー・ヒューズ / サロン2日め マリー・ホール・エッツの描いた、男の子の冒険と女の子の冒険 / サロン3日め 「育てる者」と「育てられる者」の葛藤 『まどのそとのそのまたむこう』に描かれた命の神秘 / サロン4日め 進化する赤ずきんたち 

ポストモダン絵本はどう受け継がれているか

付録 灰島かり 論文リスト 灰島かり 著作リスト

あとがき 鈴木晶


絵本翻訳教室へようこそ

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  • 作者: 灰島 かり
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2005/05/01
  • メディア: 単行本



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