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*H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って』 ミシェル・ウエルベック著 国書刊行会 [文学・評論]


H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って

H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って

  • 作者: ミシェル・ウエルベック
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本


ラヴクラフトその人とその創作の方法・あり方、さらにはその代表作を知る良い案内書

本書は「20世紀という時代は、・・おそらく叙事詩的な怪奇幻想文学の黄金時代として記憶されるだろう。そもそも、ハワード・ラヴクラフト、トールキンの出現を許した時代である」と著者の述べるうちのひとりH・P・ラヴクラフト(1890年~1937年)に関するエセーであり、著者の「最初に出した本」。

著者のウエルベックのプロフィールを見ると、「世界で最もセンセーショナルな作家の一人」と紹介されている。だが、評者は、著者もその作品も知らない。ラヴクラフトの名前は聞いた覚えがあるが、本書ではじめて、その人物と作品、またその創作技法について知ることとなった。

本書によると、ラヴクラフトは、清教徒的な(ただし、その希望を共有することなく、世俗への拒絶を共有する)ジェントルマンであったようである。その文学から“生活”は排除されていたようだ。カネや性は論外のものであったらしい。自分の作品が世間で受け入れられることにもさほど関心がなく、結婚も女性側のアプローチを受け入れてしたものの、それも破綻するという生活力のない人物であったらしい。しかし、それは見ようによってそう見えるというだけで、より積極的な見方をとるなら、本書副題にあるように「世界と人生に抗って」いたということにもなる。面白いことに、ラブクラフトの「傑作群」は(結婚が破綻するなどして)「人生が終わったところから始ま」った、とある。

著者の執筆の動機はなんだろう。自分の敬愛する作家の略伝と作品の魅力を書くことで、ラヴクラフトから決別・独立しあらたな独自の作品世界を構築していこうとの思いがあったのだろうか。ラヴクラフトが取った「世界と人生に抗」うに際しての手法、その「攻撃技術」を言語化し、自分のものとしようとしたのだろうか。いずれにしろ、本書はラヴクラフトその人とその創作の方法・あり方、さらにはその代表作を知る良い案内書となっている。

以下、目次

「ラヴクラフトの枕」スティーヴン・キング // 序 // 第1部 もう一つの世界 (儀礼としての文学) // 第2部 攻撃の技術 (晴れやかな自殺のように物語を始めよ / 臆することなく人生に大いなる否(ノン)を宣告せよ / そのとき、大伽藍の偉容が見えるだろう / そしてあなたの五感、いわく言い難い錯乱のベクトルは完全な狂気の図式を描きだすだろう / それは時間の名づけ難い構造のなかに迷い込むだろう) // 第3部 ホロコースト (反伝記 / ニューヨークの衝撃 / 人種的憎悪 / わたしたちはハワード・フィリップス・ラヴクラフトから魂を生贄にするすべをいかに学ぶことができるのか / 世界と人生に抗って) // 読書案内 訳者あとがき

2018年1月17日にレビュー

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
ウィキペディアから
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88



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  • 作者: H.P.ラヴクラフト
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