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『はじめて地理学』 富田 啓介著 ベレ出版 [地理学]


はじめて地理学

はじめて地理学

  • 作者: 富田 啓介
  • 出版社/メーカー: ベレ出版
  • 発売日: 2017/11/16
  • メディア: 単行本


地理学が「日常に溢れていることを理解」できる

これから「地理学」を学ぼうという後輩に、先輩としてその内容と魅力を親切に伝えようとの熱意を感じる。たいへん理解しやすい書籍だ。

著者はいう。〈地理学とは、ずばり「空間の科学」です。地球表面に広がるありとあらゆる事象を対象にし、その分布や地域の多様性を見つめ、分析するのが地理学です。〉

そして、「地理学が扱う課題は、突き詰めれば3つにな」り、それは「地誌学」と呼ばれる分野と「系統地理学」と呼ばれる分野、そしてそれらの課題を扱っていくための基礎となる〈地図学、測量学、地理情報学〉と呼ばれる分野であるという。

そして、「系統地理学」には、「地形学や気候学のように自然現象を扱う自然地理学」と「社会現象や社会環境を扱う人文地理学」とがあるが、著者の専門は「自然地理学」の方。

著者はいう。〈高校までの教科としての地理は、「何がどこにあるか」という事実をひたすら覚える、暗記物のイメージが強いかもしれません。しかし、事実を覚えるだけでは地理「学」とは言えません。たとえば「ここに都市がある」という事実を知ったなら、地理学では、どうしてそこに人が集まっているのだろうか、と考えを進めます。それを追求するためには、人だけでなく、人を取り囲む大地や大気についても知る必要があるでしょう。このように、地理学は、地表面に見られる(引き起こされる)あらゆる事象を、互いの関係性を見極めながら解き明かしていく学問です。地理学の研究は、ジグソーパズルを解くように、わくわくするとても楽しい活動です。〉

著者は「山田さんの朝」「山田さんの夕」という創作をとおして、地理学の対象となりうるものを示し、「地理学が日常に溢れていることを」示す。それには、姓の分布、起床時間の地域差、人の移動やそのパターン、地価(地価を反映した家賃も含む)の分布、地域の伝統食・ご当地グルメのような食材や料理、距離や空間という要素があれば恋愛や交際、手書き地図を用いて人が空間をどう認識しているか、パワースポットのような特定の場所に固有のイメージがどのように形成されていくか、人の行動範囲や経済活動に影響を及ぼす日照時間の変化、人の一生における行動経路(ライフパス)の分析、個人の生活史(ライフヒストリー)を分析して地域社会や自然環境の移り変わり、土地条件と災害との関わり、子どもが身近な空間をどう認知し、発達の過程でそれがどう変化するのか、などなどである。

「本当のあとがき」で著者はいう。〈この本の内容は第1章を除いて自然地理学に偏っています。〉そして、本書の特徴として〈ほかの地理学に関する書籍ではほとんど取り上げられていない、生物多様性や自然環境の保全に関する知見を、随所に織り込んだこと〉と記している。実際、そのような記述が多く、地学や植生学、生態学、環境学など隣接分野の情報も多く示される。

評者にとってこれまで、それら隣接分野の本からの情報だけでは、不明瞭であった点(たとえば「植生遷移」「極相」に関する知識)が本書をとおして明らかにされたのは嬉しいことであった。「地理学を学ぶと いつもの景色が違って見える」と帯に記されてあるが、そのとおり、本書をとおし地球レベル、地域レベルで、景色が違って見えてくるようになるように思う。

2018年1月16日にレビュー

里山の「人の気配」を追って  雑木林・湧水湿地・ため池の環境学

里山の「人の気配」を追って  雑木林・湧水湿地・ため池の環境学

  • 作者: 富田 啓介
  • 出版社/メーカー: 花伝社
  • 発売日: 2015/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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