『絶滅危惧職、講談師を生きる』 神田 松之丞 新潮社 [エンターテインメント]
松之丞は絶滅危惧講談界の「下火」の中からよみがえったフェニックス・・・
講談が「下火」であることは聞いていたが、「絶滅危惧」視されているとは知らなかった。そうであれば、明るい話題が出てきたということだ。コウダンシ、神田松之丞の登場である。
本書はインタビュー形式でまとめられている。聞き手の杉江松恋氏によって、神田松之丞の生い立ち、「受験よりも落語を優先した」学生時代、あえて「絶滅危惧職」へ入門したいきさつ、「前座」のつとめ、講談の修行というもの、二ツ目の現在のこと、などなどの話しが引きだされる。
本書から伝わってくるのは、なによりも、師匠神田松鯉に対する松之丞の深い敬意である。また、それに値する松鯉先生の人格と薫陶あって、松之丞という個性も、自滅することなく、押しつぶされることなく才能を拓くこともできたのだろう。それはたいへんな幸運といえる。
日本の話芸の世界の住人は、こういう世界に住んでいるのだ。このように世渡りをしているのだということがよく分かる本だ。そうした苦労のなかで研鑽を積み、芸が磨かれていくことを知ることができる。
それにしても、講談として演じられるネタは「4500席以上ある」とのことである。そのうち実際に演じられているのは、ほんのわずかであるということだ。モッタイナイ話である。
自分の耳で聞き想像をたくましくする文化、ナマで演じ語られるものを尊ぶ文化の再興が必要のように思う。そのようにして、観客が多くなれば、演者である講談師の数も増え、「絶滅危惧」職から自ずと脱することになるわけであるから。
2017年12月19日にレビュー
目次
第1章 靄に包まれた少年期
すべてを変えた父の死 / 記憶の消えた中学時代 / 無二の親友との出会い / 大人の本音をちらりと覗き見る
第2章 受験よりも落語を優先した十八歳
圓生と出会い、談志で目覚める / 芸人として生きると覚悟を決める / 観客の視線を備えるということ / 「笑わない観客」だった / 「勉強」から入った講談
第3章 “絶滅危惧職”への入門
神田松鯉の門を叩く / 生意気な新弟子 / 命名・神田松之丞 / 師匠松鯉の指導法 /
第4章 Fランク前座
忍従の日々は続く / 異例の二人会 / 四年目の限界 / 仲間たちに助けられて / 十一人の実験、〈成金〉
第5章 二つの協会で二ツ目に昇進
インナーマッスルを鍛える / 講談とお客さんを信頼するということ / おまえは寄席育ちだからな / 二ツ目になり、講談の魅力を再確認した / とにかく、僕を聴いてください / 新作講談は諸刃の剣だった / Twitterは過渡期の武器である
第6章 真打という近い未来
人のつながりで講談も変わっていく / これからが本当の勝負 / 師匠との約束を果たしたい
あとがき