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『絶滅危惧職、講談師を生きる』 神田 松之丞 新潮社 [エンターテインメント]


絶滅危惧職、講談師を生きる

絶滅危惧職、講談師を生きる

  • 作者: 神田 松之丞
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/31
  • メディア: 単行本


松之丞は絶滅危惧講談界の「下火」の中からよみがえったフェニックス・・・

講談が「下火」であることは聞いていたが、「絶滅危惧」視されているとは知らなかった。そうであれば、明るい話題が出てきたということだ。コウダンシ、神田松之丞の登場である。

本書はインタビュー形式でまとめられている。聞き手の杉江松恋氏によって、神田松之丞の生い立ち、「受験よりも落語を優先した」学生時代、あえて「絶滅危惧職」へ入門したいきさつ、「前座」のつとめ、講談の修行というもの、二ツ目の現在のこと、などなどの話しが引きだされる。

本書から伝わってくるのは、なによりも、師匠神田松鯉に対する松之丞の深い敬意である。また、それに値する松鯉先生の人格と薫陶あって、松之丞という個性も、自滅することなく、押しつぶされることなく才能を拓くこともできたのだろう。それはたいへんな幸運といえる。

日本の話芸の世界の住人は、こういう世界に住んでいるのだ。このように世渡りをしているのだということがよく分かる本だ。そうした苦労のなかで研鑽を積み、芸が磨かれていくことを知ることができる。

それにしても、講談として演じられるネタは「4500席以上ある」とのことである。そのうち実際に演じられているのは、ほんのわずかであるということだ。モッタイナイ話である。

自分の耳で聞き想像をたくましくする文化、ナマで演じ語られるものを尊ぶ文化の再興が必要のように思う。そのようにして、観客が多くなれば、演者である講談師の数も増え、「絶滅危惧」職から自ずと脱することになるわけであるから。

2017年12月19日にレビュー

目次

第1章 靄に包まれた少年期
すべてを変えた父の死 / 記憶の消えた中学時代 / 無二の親友との出会い / 大人の本音をちらりと覗き見る

第2章 受験よりも落語を優先した十八歳
圓生と出会い、談志で目覚める / 芸人として生きると覚悟を決める / 観客の視線を備えるということ / 「笑わない観客」だった / 「勉強」から入った講談

第3章 “絶滅危惧職”への入門
神田松鯉の門を叩く / 生意気な新弟子 / 命名・神田松之丞 / 師匠松鯉の指導法 /

第4章 Fランク前座
忍従の日々は続く / 異例の二人会 / 四年目の限界 / 仲間たちに助けられて / 十一人の実験、〈成金〉

第5章 二つの協会で二ツ目に昇進
インナーマッスルを鍛える / 講談とお客さんを信頼するということ / おまえは寄席育ちだからな / 二ツ目になり、講談の魅力を再確認した / とにかく、僕を聴いてください / 新作講談は諸刃の剣だった / Twitterは過渡期の武器である

第6章 真打という近い未来
人のつながりで講談も変わっていく / これからが本当の勝負 / 師匠との約束を果たしたい

あとがき


伝統話芸・講談のすべて

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  • 作者: 阿部 主計
  • 出版社/メーカー: 雄山閣出版
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 単行本



講談落語今昔譚 (東洋文庫 (652))

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  • 作者: 関根 黙庵
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本



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