『洞窟ばか』吉田 勝次著 扶桑社 [エッセイ]
面白い人が書く本は面白い
たいへん面白い本だ。「未知」の「感動」の空間を求めて著者は、洞窟を奥へ先へと突き進んでいく。
スーパーで巻き寿司を売ったり、のみ屋、工事・解体現場で働いたりしながら、26歳で自分の会社を持つにいたったものの、著者の心にふと湧いた疑問は「オレの人生、このままでいいのか!?」。それから著者は、登山を、氷壁登りを、スクーバダイビングをしたりするうちに、「洞窟探検という遊び」があることを知る。ケイビングクラブ主催のはじめての探検のことを著者は次のように記す。
《暗闇の中を這うように進みながら、洞窟が持つ圧倒的なパワーに自分が吸い込まれていくような感覚が湧き上がってきた。たぶん洞窟に入って10メートルも進んでなかったと思う。しかし、オレのテンションはすでに最高潮に達していた。/ 「これだ!、これだ!、これだ!」/ 「オレがやりたかったのは、こういうことなんだ!!」。/ 大げさでなく、自分の心にドカーンと雷が落ちた感じがした。そして、まわりは真っ暗だったのだが、目の前がパーんと明るくなるような感じもした」》。
それから「洞窟病」となって、どんどん洞窟に深入りし、洞窟を中心とした生活にのめり込み、果ては周囲に「洞窟病」を感染させ、テレビ取材のサポートやら学術探検やらでのオファーがかかるまでになる。現在は、写真集を出すために奮闘中であるもよう。
著者の「洞窟病」(評者には「洞窟教」という宗教にも思えるが)に感染する前とその後を読みながら、スーパーの店員やのみ屋の給仕や工事現場の職人など、ごくごくフツウの人の中に、著者のような魂(スピリット)の持ち主が隠れているのかと思うと、「未知」との出会いを求めて、誰彼なく声をかけてみたくなる思いがした。たいへん面白い本で、凡庸なことを記すが、面白い人が書く本は面白くなるということだろう。著者の次なる本、写真集の発刊されることを首を長くして待ちたい。
2017年2月13日にレビュー
以下は、洞窟探検「仲間」に関する記述。
《オレも仲間たちも落石には細心の注意を払って行動しているが、そもそも洞窟に入る以上「落石のひとつやふたつ」という覚悟は常に持っている。それに今回は仲間が落としてオレが当たったが、逆の立場になることだって十分にあり得る。/ 仲間が石を落とし、オレに当たったことは「しょうがない」ことだし、左肩を骨折した状態で何とか300メートルのロープを(ふつうなら3,4時間かかるところを30時間かけて)登り切れたことは「よかった」と思う。それだけだ。/ 洞窟の仲間は親子でも兄弟でもないが、それを超えて命を預け合える不思議な関係だ。昨日今日出会った人とは厳しい探検には行けない。こいつに石を落とされて死んでも諦められる・・・・それが仲間なのだ(「プロローグ 落石、骨折・・30時間の脱出行」)》。