SSブログ

『地図で見るアラブ世界ハンドブック』マテュー ギデール著 原書房 [外交・国際関係]


地図で見るアラブ世界ハンドブック

地図で見るアラブ世界ハンドブック

  • 作者: マテュー ギデール
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2016/11/28
  • メディア: 単行本


フランス人著者による、アラブ世界の現況を理解するための助け

「アラブの春」以後のアラブ世界を横断的に概観する書籍。書籍タイトルに「地図で見るアラブ世界」とあるとおり、多色刷りの地図が、ページ毎にほとんどと言っていいほど掲載されている。説明は簡潔で、行間はひろ目にとられて、見やすい。

書籍カバー袖には「アラブ諸国での戦争や紛争が頻発する昨今において、『認識の衝突』を緩和するためにも、このようなアトラスがなくてはならないものとなっている。本書は、人々や土地にかんする現在のデータを、斬新な地図やグラフィックをもちいてあらわした地政学の概要書である」と(本書『はじめに』に)示されている。(ちなみに、裏表紙には「どの国も沸騰状態にあり、未来はまだ見えてこない」と記されている)。

『はじめに』の、それにつづく言葉は《「アラブ世界」のマグレブ、マシュリク、湾岸地域それぞれに重点を置くなど、独自の見解を示すものでもある。いずれの地図も、地勢(サハラ砂漠、平野、都市)、地域(肥沃な三日月地帯、サヘル、近東)、国家(チュニジア、モロッコ、エジプト、シリアなど)について「真実」を語っているわけではないが、全体的には、複雑な現実をあらわす総合的なヴィジョンとなっている。説明文も必然的に簡潔で総括的なものとした。22カ国それぞれの国を個別に論じることは避け、現況を理解するための共通要素をとりあげた。したがって読者は、さまざまな国家や民族(クルド人、アルメニア人、ベルベル人など)、言語や方言(モロッコ、エジプト、シリア=レバノン、イラクなどのアラビア語)、宗教(イスラーム教、キリスト教、ユダヤ教)、教義や少数派・多数派の宗教(スンナ派、シーア派、アラウィー派、マロン派、ドゥルーズ派など)を横断する骨組みを見いだすことだろう》と、ある。

著者はフランス人。アラブ世界を植民地としてきた国民だ。その点日本人よりアラブ世界にずっと近い。本書中、「アラブ人の集合的記憶のなかで」とか「アラブ人の集合的イメージにおいて」という言葉とともに、彼らがものごとをどのように見ているかの解説がなされていく。その言葉や本書の記述から評者が“感じる”のは、アラブ世界の外に住まう著者ではあるが、単なる観察や研究によってではなく、アラブ世界のウチガワを血肉とした上で記述しているという印象である。アラブ世界(アラブ連盟22カ国)の歴史、政治、経済、文化を概観し、現況を知るうえでの良い教科書であるように思う。

2017年1月6日にレビュー

イスラーム基礎講座

イスラーム基礎講座

  • 作者: 渥美 堅持
  • 出版社/メーカー: 東京堂出版
  • 発売日: 2015/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



地政学だけではわからない シン・国際関係論

地政学だけではわからない シン・国際関係論

  • 作者: 天野 修司
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2022/08/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

トラックバック 0