*イスラーム基礎講座』渥美堅持著 東京堂出版 [外交・国際関係]
おかげで、イスラームの「基礎」固めはできたように・・・
著者は、宗教学者ではありません。アラブの政治情勢分析を専門とする立場にあります。若いとき、エジプトのアズハル大学で、約8年間イスラーム教について学びました。が、それは中東の政治情勢分析に必要不可欠なアラブ人の行動様式、思考様式を考えるためでした。
政治情勢の分析には、その土地に住む民族の臭いがなければならない、というのが、著者の持論です。情勢とは人間が演出するものであり、演じるものですから、人間的特性が表現されなければ情勢の未来予測はおろか現状分析もできない。当然ながら、アラブの民族の臭いを知らないアラブの情勢分析には、おのずと限界がある・・・。
そう主張する著者による著作だけのことはあります。イスラムの教えや儀式、彼らの生活について単に解説するだけの無味乾燥のものではありません。カイロのマスジット(礼拝所)で、名も知らない人からアラビア語の読み書きを習い、時に「出来が悪く、鞭で手のひらを打たれた」方ならでは血のかよった内容となっています。(脚注として、ページ下段に補足解説があります。たいへん充実しています。単なる語句解説ではなく、関連(想起される)情報がイラスト写真付きで示されています。「血のかよった」印象は、そこからもきているように思います)。
『プロローグ』は、「イスラム過激派」「テロリズム」「イスラム国」の話題から入ります。過激的イスラーム集団についての理解を得るために、まずは、イスラームそのものを知る必要があると著者は述べます。しかし、イスラーム世界と日本人とは全く異なる世界観をもつ。それゆえ、イスラームを理解するためには、日本的性格・見識をあえて意識的に認識しなければ、イスラームは見えてこない、と・・・。
当方は、アラブ、イスラーム、いずれも無知を自認するものですが、当該書籍は、たいへん勉強になりました。佐藤優氏の推薦の言葉(「イスラームについて知るにはこの本を超えるものはない」)を額面どおり受け取っていい書籍であるように思います。おかげで、イスラームの「基礎」固めはできたように感じています。
2015年11月10日にレビュー