SSブログ

『読書の愉しみ』中村 稔著 青土社 [読書案内]


読書の愉しみ

読書の愉しみ

  • 作者: 中村 稔
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2016/07/22
  • メディア: 単行本


著者の読書スタイルを学ぶことから「愉しみ」をひき出せる・・

内容紹介文に「イザベラ・バード、クロポトキンから柿本人麻呂、太宰治まで。大知識人による豊穣なる書物の世界への誘いの書」とあるので、古典から現代文学まで洋の東西を問わず、読書の醍醐味について、また滋味を得る方法について記した書物かと思ったが、そうではなかった。少なくとも、時系列的に多くの文学作品・作家について論じるものではなく、紹介文の4人の他には、源実朝、加藤楸邨のみである。源実朝の「金塊和歌集」は書き下ろし、それ以外は、雑誌『ユリイカ』等に既に掲載、講演されたもの。そして、『後記』には、こうある。《こうして統一性のない読書を私は随時愉しんできた。読書をどう愉しむかは人によりさまざまでありうる。本書に記した愉しみに触発されて、読者の方々がそれぞれの読書の愉しみを見いだしてくださることを私は期待している》。評者の期待からいうと、放りだされたようなもので、まさに「拍子抜け」である。

しかし、それでも、世評高いイザベラ・バードの『日本紀行』について、著者はその観察眼、知性は認めるものの、《同時に、これが「先進国」イギリス人の見方なのだとあらためて痛切に感じる記述の多いことも事実なのである》と記し、クロポトキンの自伝『ある革命家の思い出』については、《その理想主義に限りない郷愁を感じる》と記す。「柿本人麻呂」については、《松尾芭蕉と並ぶ、わが国の詩史上の二巨人と考え、いまだにこうした考えは変わらない》と言い切り、『石見相聞歌』を取り上げる。その際、斎藤茂吉、山本健吉らへの批判を加えていく。『源実朝』については、金塊和歌集をとりあげ、結語で《すぐれた叙景詩人であった。しかし、それ以上の天才ではなかった。私は彼をそのように評価している》と、歯切れがいい。先の2編は引用が多く、そこに註釈をつけていくスタイル。あとのものは、みな論考としては短い。いずれも、そのように著者の感じるところ、結語する理由を追って読むところから、著者の読書スタイルを学び、滋味をひき出せるように思う。

2016年11月2日にレビュー

イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)

イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)

  • 作者: イザベラ・バード
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/04/10
  • メディア: 文庫



ある革命家の思い出 上(全2巻) (平凡社ライブラリー)

ある革命家の思い出 上(全2巻) (平凡社ライブラリー)

  • 作者: P.クロポトキン
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2011/09/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

トラックバック 0