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『まわりには聞こえない不思議な声 中高生のための幻声体験ガイド』サンドラ・エッシャー著 日本評論社 [心理学]


まわりには聞こえない不思議な声 中高生のための幻声体験ガイド

まわりには聞こえない不思議な声 中高生のための幻声体験ガイド

  • 作者: サンドラ・エッシャー
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2016/05/24
  • メディア: 単行本


幻聴は「わりとありふれた出来事」で・・・

ふつう「幻聴」として語られる(括られる)べき体験が、ここでは「幻声」として取り上げられている。医学用語としての「幻聴」は、統合失調症をすぐに想起させるもので、「病気」をイメージさせるものであるからだ。ところが、実際のところ、思春期に幻聴を経験する子どもたちは8~10%いるのだという。つまり「わりとありふれた出来事」で、しかも、著者の元に相談に訪れた「幻聴」経験者のうち60%は、その後の追跡調査で3年のうちに「症状」が消失したという。

当方も「幻聴」経験者である。たいへんマレではあるが、実在生存する他者のたいへんリアルな声で名前を呼ばれ(たと感じ)ることがある。その時は、「ああ、侵入だ」と思う。どこかで聞きかじった心理学用語を思い出し、それで、安心する。

ところが、本書に多数紹介されている実例は、もっとずっと深刻である。「声」に教唆されたり、脅されたりする。それに応じて問題行動にいたる場合もある。思春期に突然、自分だけにしか聞こえず、まわりには聞こえない不思議な「声」が降りかかってきたなら、しかも、それが執拗に続いたりしたなら、たいへん当惑し、心配もし、つらいだろうなということはわかる。

当該書籍は、そうした経験をしている若い人びと(と、見守る近親者)に、不必要な心配をしないよう、幻声にどのように向き合っていったら良いかを教える内容となっている。個別の事例がいろいろ出ている。自分の経験と比較しながら、消失の期待をもって読むことができようかと思う。

「17 精神医療の果たすべき役割」(担当:サミ・タミミ)では、「親しい人と死別したり、身体の病気になるなど、ストレスがかかると一般の人でも幻聴を生じることがあります。正常と病気の境には連続性があるのです」とあり、文化の相違によっては「幻聴」が「病気」の範疇から外れることも示されている。「18 聞こえてくる声の歴史」では、「幻聴」を主症状と特徴付ける統合失調症のDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の診断基準は「未成熟な判断基準」であるとあり、興味深い。

直接、若い人たちに語りかけるような文章が用いられているので無理なく読むことができる。ただ、翻訳に際して、いくつかの箇所で、注釈を付加する必要性があるように感じる。たとえば、《 声が 『死」について語るときは、これまでの生活を新たに変える時期がきているということかもしれません(「声が語ることの意味」)》とある。ユング心理学でいう「死と再生のテーマ」が原著者の念頭にあっての文章だと思うが、そのことを説明しないと若い人たちはわからないのではないかと思う。

2016年7月9日レビュー
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