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『ネット炎上の研究』 田中 辰雄著 勁草書房 [インターネット]


ネット炎上の研究

ネット炎上の研究

  • 作者: 田中 辰雄
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: 単行本


情報革命・情報化時代における「ネット炎上」を憂うる学術書

情報革命・情報化時代における「ネット炎上」を憂うる学術書。単に、ネット炎上とは何か、統計的にどうか、原因は、対策は・・といった域を超えている。

そのスケールの大きさは(ほとんどオマケといっていいような)6章「炎上の歴史的理解」からもわかる。近代以降を、3区分して著者は論じていく。1:軍事革命を経て国家がつくられる時代(17~18世紀)、2:産業革命を経て産業化が進む時代(19~20世紀)、3:情報革命を経て情報化の時代(21世紀~)。詳細は省くが、面白い。

そこで著者が言おうとしているのは、時代の草創期には力の濫用が(かつて)あり(伴い)、情報化時代草創期の今日、力(「解放された情報発信能力」)の濫用として「ネット炎上」があるということだ。そこでは、国家が成立し正規軍が生まれる(「傭兵に俸給を与えて常備軍化する」)前の「傭兵」たちによる暴虐行為や、産業革命初期の金融恐慌・児童虐待など、当時示された力の濫用と同類のものと「ネット炎上」が見なされている。そこにある著者の思いは、暴走は防ぎつつも濫用されている力の潜在力は活かし、情報革命・情報化の時代は推し進められるべきであるというものである。ネット炎上によって、インターネット開始期に抱いた夢(「多くの人が情報発信をして自由な議論の輪に加わり、討論の民主主義が社会のすそ野にまで広がっていく」)が毀たれるのを著者は望んでいない。

『はじめに』には、次のようにある。《炎上には企業の不祥事を正すなど民主主義の力の発露として評価すべき面もある。しかし、個人の情報発信にともなう炎上は一方的な攻撃であり、発信者の心を傷つけるだけである。したがって、炎上が頻発すると人びとは発言を控え、情報発信を萎縮するようになる。多くの炎上対策本は炎上を避ける方法として、炎上しそうな発言を避けろと言う。さらに踏み込んでそもそも情報発信を止めるのがよいと説くものもある。その結果、ネット上で情報発信を続けるのは炎上にめげない一部の強者だけとなり、ネット世論には極端な意見が増えてくる。中庸な議論が消えて極端な議論が増え、それら両極の人が互いに相手を罵倒し合う。かくしてインターネットでの意見交換を明るく語る論調はほとんど見られなくなってしまった》。

各章冒頭で、要点が簡潔に示され、のちに本論で、具体的事例をあげての解説がなされていく。本書の特徴である「定量的になされた」データ分析から示されるもの(炎上は誰が起こし・・、どれくらいの参加者がいるかの答え)は予想外に思えるにちがいない。それに基づく、ネット炎上への対策・提案もなされ、巻末には、高校生向けにおこなう「炎上リテラシー教育のひな型」も付録されている。

2016年7月8日レビュー
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