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*ウンベルト・エーコー編著『異世界の書 幻想領国地誌集成』東洋書林 [人文・思想]


異世界の書―幻想領国地誌集成

異世界の書―幻想領国地誌集成

  • 作者: ウンベルト エーコ
  • 出版社/メーカー: 東洋書林
  • 発売日: 2015/10
  • メディア: 単行本



古来、人々を誘ってきた「伝説の土地や伝説の場所」への案内書

豪華本です。図版・写真が多く掲載されています。光沢のある紙が用いられ、美術書のような扱いがなされて、見応えがあります。

当該書籍で取りあつかう『異世界』について、著者は「伝説の土地や伝説の場所」のことであり、(そして、「架空の」「虚構の」「創作された場所は扱わない」と述べ)、それらの土地や場所は「信念の流れを創り出す」ものであり、「幻想のもつ現実性(リアリティ)こそが本書を貫く主題となる」と『序論』に記します。

第1章は『平板な土地と対蹠地』と題され、古代・中世における「土地や場所」の観念について注意が向けられています。とりわけ、中世の人々が「世界は球体であることを」知らず、大地は平板であると信じていたとする「常識」は、実は「19世紀の世俗思想家たちによるでっち上げ」であることが示されています。常識が覆されます。

以下、2章『聖書の土地』、3章『ホメロスの土地と七不思議』、4章『東方の驚異ーアレクサンドロスから司祭ヨハネまで』、5章『地上の楽園、浄福者の島、エルドラード』、6章『アトランティス、ムー、レムリア』、7章『ウルティマ・トゥーレとヒュペルボレイオイ』、8章『聖杯の彷徨』、9章『アラムート、山の老人、暗殺教団』、10章『コカーニュの国』、11章『ユートピアの島々』、12章『ソロモンの島と南大陸』、13章『地球の内部、極地神話、アガルタ』、14章『レンヌ・ル・シャトーの捏造』、15章『虚構の場所とその真実』、訳者あとがき、附録(作家名索引、図版作者名索引、図版一覧、映像作品一覧、邦訳参考文献、参考文献、図版出典)とつづきます。

各章の構成・内容は、『訳者あとがき』にあるとおりです。そこには、「美麗な図版の合間に配置されたテクストは、エーコ自身の執筆になる本文と、各主題に関連する様々な文献のアンソロジーで構成されるが、本文の筆致は軽やかで読みやすく、アンソロジー部分は、本文を補う資料としての役割はもちろん、読者を知の沃野へ導く扉ともなっている」とあります。実際のところ、「本文を補う」文献資料の膨大さに圧倒されますし、さらなる興味を呼び起こすものとなっています。

たとえば、第5章中の見出しに「エルドラード」がありますが、ウォルター・ローリー卿などによって文字通りの探索がなされたものの、「探索への人々の関心が次第に薄れていくと、今度はこの題材をアイロニカルに利用して世の中を批判する作品が現れる。ヴォルテールの『カンディード』である」と本文テクストにはさらっと記述され、後に1ページほどを用い、(本文テクストのルビ程の活字で)『カンディード』からの引用がなされています。

『序論』において「虚構の場所については」「扱わない」と記しながらも、最終章のテーマは『虚構の場所とその真実』です。その本文テクスト末尾には、「こうして最後にひとつの慰めが得られる。それは伝説の土地であっても、信仰の対象から虚構の対象へと変わった瞬間に真実になるということである」 と、あります。どういう意味でしょう。どうも、そこが、本書の肝(キモ)のようです。しっかり掴むことができればと願います。

2016年3月4日レビュー


世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生

世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生

  • 作者: 大田 暁雄
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2021/12/17
  • メディア: 単行本



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