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*首塚・胴塚・千人塚 日本人は敗者とどう向きあってきたのか』室井康成著 洋泉社 [民俗学]


首塚・胴塚・千人塚 日本人は敗者とどう向きあってきたのか

首塚・胴塚・千人塚 日本人は敗者とどう向きあってきたのか

  • 作者: 室井 康成
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2015/11/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



本書の目的は「(首・胴)塚に仮託して語られる、人々の戦死者に対する想いを掬いあげること」

戦いによって敗者となり、殺され処刑された(あるいは、自決した)人々の、身体から切り離された首や胴体のその後の行方を追う(「大化の改新」から「西南戦争に至る)「通史」。もっとも、もっぱら取り上げられるのは、史料ではなく、それらの首・胴体にまつわる言い伝え「伝承」である。それゆえ、史実、事実に基づく歴史というより、民俗学の範疇に入る。

著者は、『はじめに』(p4)で、その点を次のように述べる。〈塚の歴史的真贋がどうであれ、そのいわれを説く伝承からは、これを語り伝えてきた人々の、過去の戦死者に対する想いを汲みとることができると考える〉、さらに『序章』(p23)で次のように記す。〈本書は、戦死者の亡骸を埋葬したとされる塚の伝承を論じるものの、その真偽や形成過程を歴史学的に明らかにすることを目的としていない。それは、私が柳田国男と同様、そうした伝承は「人が信じて居るということ」(柳田)にこそ、その意義があると考えるからだ。換言すれば、塚に仮託して語られる、人々の戦死者に対する想いを掬(スク)いあげることが、本書の目的だからである。〉

取り上げれている首・胴の持ち主は 1章 蘇我入鹿、2章 大友皇子、3章 平将門、4章 平忠度、平敦盛、平重衡、平宗盛、平清宗、源義経、5章 楠木正成、新田義貞 6章 鳥居元忠、大谷吉継、島津豊久、小西行長、安国寺恵瓊、長宗我部盛親、7章 井伊直弼、近藤勇、大村益次郎、江藤新平、西郷隆盛

著者は、『日本書紀』『将門記』『平家物語』『関ヶ原始末記』『大久保利通日記』等の史料や他の論者の先行研究を引きつつ、自ら現地に赴いた印象を「私見」と明示してはさみながら論じていく。著者が「(西郷の墓所について)それが史実でないとわかっていても、そうあってほしいと願う感情を、私はどうしても抑えることができなかった」と記すとき、読者として無理なく「その想いを汲みとることができる」。

勝者によるオモテの歴史ではなく、日本の歴史のウラを(敗者をめぐる伝承から)包括的にとらえた著作として高く評価したい。

2016年3月1日レビュー


首切りの歴史

首切りの歴史

  • 作者: フランシス・ラーソン
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/09/15
  • メディア: 単行本



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