*フランク・ゲーリー 建築の話をしよう / エクスナレッジ刊 [建築など]
夢をカタチにする過程が、見て取れる
『ザ・ニューヨーカー』誌の建築評論家ポール・ゴールドバーガーが「世界でもっとも有名な建築家」と評したフランク・ゲーリーによる対談本。「自伝をつくりたいので、力を貸してくれないかと声をかけられ」、著者バーバラ・アイゼンバーグがまとめたもの。しかし、単なるサクセス・ストーリーではない。中心となるのはあくまでも「建築の話」。
ゲーリーは、夢をスケッチし、模型とし、建築依頼者や環境とのからみを考量しながら改良を加え、粘りづよく現実のものとしていく。「落胆」とのたたかいもある。「コンペで負けたり、棄権せざるをえなくなったこともあれば、せっかく勝ちとったコンペが規模縮小されたことも、完全に白紙に戻った」りすることもあるからだ。
1929年、カナダのちいさな炭鉱町のユダヤ人家庭に生まれたイーフレイム・ゴールドバーグ(ゲーリーの本名)は、17歳までカナダで過ごし、のちロサンゼルスに移住。21歳のときにアメリカ市民になることを選ぶ。南カリフォルニア大学建築学部を卒業し、ハーバード大学デザイン大学院へ・・と、キャリアを追って語られる。一見、華々しいが、実のところは、ほとんどが苦労話である。差別、貧乏、クライアントとの齟齬などなど、自分にとって不都合なことも正直、真率、フランクに話している印象が好ましい。
紹介されているゲーリーによる(夢の)スケッチ、模型、実現した夢(ミネソタ大学 フレデリック・R・ワイズマン美術館、ビルバオ・グッゲンハイム美術館、ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール、ニューヨーク ビークマンタワーなど多数)の写真も見ごたえがある。夢をカタチにする過程が、見て取れることも、当該書籍の醍醐味。
個性を活かすクリエイティブな仕事ほど、それをカタチにするには、他者との協調、コミュニケーション、人との好縁なくしてはありえないという印象をもった。内容は、もっぱら建築にかかわるものだが、夢をカタチにして社会・公共の場で活かしていくことを願う人であれば誰もが参考にできる本である。
2016年2月2日レビュー