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課された暗誦教育『数学まなびはじめ 第3集』から加藤十吉(ミツヨシ)九大名誉教授の回顧


数学まなびはじめ 第3集

数学まなびはじめ 第3集

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 単行本



加藤十吉(ミツヨシ)九州大学名誉教授は、中学校1年時、担任兼数学教師から課されていたことを、回顧する。ホームルームの時間、頼山陽や孔子の言葉を、皆で合唱した後、状況説明・解説がなされ、次回までに暗唱してくることが求められたという。

課された詩句は、頼山陽(13歳時)の「十有三春秋往くものは既に水のごとし、天地始終なく人生生死あり、焉んぞ古人に類し千載青史に列するを得ん」など・・

課した、教師の名は、上記イメージ書籍中、「田中芳一先生」と記されてある。
(以下、引用)

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お蔭さまで、未だにこのように記憶している。立身出世を心がけて、そのために不断に学ぶこと、しかも、ただ学ぶだけでなく、学んだことの意味も同時に考えるべきこと。まさに旧態然とした戦前の修身教育そのものである。そうした批判はあるにせよ、田中先生のホームルームの時間で学んだことは、現在にも通じる普遍性があるように思える。そうした教訓詞を暗唱することにより、学ぶことの大切さを理屈でなく本能的に会得し、いかに学ぶかについては反射的に対応できるようになっていた。

最近、大学の微積分の授業で、極限の定義の際のε-δ論法で、収束する数列の極限の和がそれぞれの数列の項の和のなす数列の極限に一致することを証明したとき、

「そんな(あたりまえの)ことを証明してどんな得があるのですか?」

という質問を受けたことがある。その当たり前のことを当たり前に証明するために苦労してε-δ論法を使っているのに、まるで、物事の核心が分かっとらんと呆れながらも、

「そのうちわかるようになるよ」

としか答えようがなかった。

ギリシャ・アカデミズムの伝統を継承し、現在ハヤリのCOEとやらの奔りとして、約2,300年ほど前、古代エジプトのアレキサンドリアに開校された国際大学ムセイオンで、平面幾何学の祖とされるユークリッドが講義した後でも、同じような質問を受けたという。

ユークリッドは講義助手に向かい、次のように命じたといわれる:

「その人に3銭あげなさい。その人は学問したら得しないと済まないとの考えだから」

学問が目先の利益のためではなく、むしろ、そういうものから離れて、真理の探究という崇高な目標に向かうものであるとしたギリシャ・アカデミズムの極意のようなものを、間接的ではあるにせよ、田中先生の修身教育から植え付けられたような気がする。
p104-7
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この後、「田中先生の暗誦教育は、数学の授業では一層徹底された」とあり、整数の定義、約数倍数の定義などを、暗誦することがクラス全員に課せられ、「答えを口篭もったり、正確にいえなかったりしたら、先生の愛のビンタを受ける羽目にな」ったことが記される。「ホームルームで修身教育を体験し、数学の授業では定義の暗誦教育を受けたのであるが、それら暗誦教育がゴッチャになり、修身と数学の内容が頭の中で混在し、一体化してしまって、いつの間にか数学は大切な学問であると認識し始めたようである」と回想されている。


微分積分学原論

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  • 作者: 加藤 十吉
  • 出版社/メーカー: 培風館
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 単行本


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  • 出版社/メーカー: 角川書店
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  • メディア: 文庫



鏡映反転――紀元前からの難問を解く

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  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/07/16
  • メディア: 単行本



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