「嫌なこと、全部やめても生きられる」プロ奢ラレヤー著 扶桑社 [エッセイ]
著者は人から奢ってもらって生活している。いわば不特定多数の人に寄生している。パラサイトである。奢るのは誰でもいいわけではなくスクリーニングされる。著者の好奇心をくすぐる経歴能力のある人でないと外される。著者への興味から奢り人として応募してきた人は著者のメルマガに掲載される。それを面白がって読む人がいるので、著者の懐にはお金がなだれ込む。
著者の人生観は「額に汗し」「汗水を流し」て働くことを「是」とする観点からは「非」とされるだろう。だが、人を集めSNSに記事をアップするのもりっぱな仕事である。要するに、著者は自分の好きなこと興味あることをして世渡りをしているにすぎない。あくせく苦労してガマンの毎日を送るのも人生なら楽して生きるのも人生である。
著者は賢い人である。「嫌なこと、全部やめても生きられる」のを証明してしまった。その賢さが道徳基準に真っ向から反するものであれば詐欺や犯罪の類となる。しかし著者は、自分のデキルことを賢く行っているにすぎない。著者の賢さもさることながら、著者が奢ラレヤーとして暮らせること、その筋のプロとして生きることができる日本という国の懐の深さを感じる。
江戸時代の職人は半日しか働かなかったと聞くし、座布団に座ってハテナ?と頭をひねれば何万両と儲ける人もいた。むかしも今も世間のシバリに縛られるままにもがく人もいれば、そこから脱してうまく世渡りする人もいる。その縛りに気づいて「おれは嫌だ、ヤッテラレナイ」と体が反応できるかどうかで、その後の人生が変わる。多くの人が分かってはいてもシバリに縛られ、そこに留まるなか自分に正直になって世間から空中浮揚した著者はやはりすごいと言わねばならないように思う。
NHK落語名人選(4) 五代目 古今亭志ん生 塩原多助一代記
- アーティスト: 古今亭志ん生(五代目)
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1990/05/25
- メディア: CD