白黒つけないベニガオザル: やられたらやり返すサルの「平和」の秘訣 (新・動物記 7)豊田 有著 [動物学]
白黒つけないベニガオザル: やられたらやり返すサルの「平和」の秘訣 (新・動物記 7)
- 作者: 豊田 有
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2023/01/17
- メディア: 単行本
ベニガオザルに魅力をおぼえ、先行・長期研究のほとんどない彼ら・彼女たちと出会うために著者はタイに乗り込む。水道の蛇口をひねると死んだ魚が出てくるような非衛生な環境に長期滞在して観察を重ねる。
本書は、新人動物学者の(しかも稀に見る心優しいサル学者による)研究報告である。ベニガオザルについて知ることができるだけでなく、デジタル機器の発達した今日のフィールドワークがどんなものかについて、また、学位を取得するための(経済面もふくめた)労苦について、そして何よりもそれらについて語る著者自身について知ることのできる著作である。
心優しい人である。著者のような人がサル社会に入るとサルも影響を受けてしまって天然野性のままではいられなくなりはすまいかと思ってしまうほどだ。子ウサギの皮をむしり取って食べようとしたベニガオザルがほとんど肉を食べずに放置したのは、著者の視線を意識しその心情を察したからではないかと評者には直観された。
ニホンザルとは異なるベニガオザルのサル社会について示される。評者はサルの生態を示す本を読むこと自体はじめてなのだが、これほどオモシロイものとは思わなかった。以前、『サル学の現在』を書いた立花隆さんが、たいへんオモシロイと言っていたが、その意味がわかった気がする。人間にちかい動物種であるだけに、読んでいると自然に比較してしまうのだろう。本書ではサルの性行動や争い、和解行動について記されて興味深い。(以下、本書主題とも関係するところを一段落抜粋してみる)
やられたらやり返す社会の中で、ベニガオザルたちがバラバラにならず集団の秩序を保って暮らせている理由は、平等だからではない。平等な社会だからこそ起きてしまう争い事を、彼らが彼らなりに努めて回避しようと工夫しているからである。順位関係があいまいで衝突が起こりがちな社会でどうやって平和を維持していくか、という問題に対するベニガオザルたちなりの一つの工夫や努力の表れが、和解行動の洗練なのだ。(p126 『3章「平和なサル」のウラの顔 平等社会を維持する努力』から)