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『あざむかれる知性』村上宣寛著 ちくま新書 [心理学]


あざむかれる知性: 本や論文はどこまで正しいか (ちくま新書)

あざむかれる知性: 本や論文はどこまで正しいか (ちくま新書)

  • 作者: 村上 宣寛
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/12/07
  • メディア: 新書



人間は愚かだ。わたしもその一員だ。それでも、これで少しは・・

「まえがき」で、著者は子供のあそびをとりあげる。「綿1キロと鉄1キロのどちらが重い?」のひっかけ遊び。ついつい、鉄の重たいイメージにヒッカカッて、「鉄!」と答えて、バカにされ、笑われ、た。 アレ!

人間の頭は、所詮、その程度であると著者はいう。質の問題と量の問題を混同してしまう。分離して認識できない。ソレをいいことに、そのスキをつくかのように、「科学」の体裁をいかにも整えているかに見える(エセ・擬似・科学モドキの)情報、知識、本が出回り、しかも、持て囃されたりする。それがために、実害がいく世紀にもわたって及ぶこともあった・・。(著者はそうした実例として「血液病因論」に基づく瀉血・輸血をとりあげて論じている)。

著者は、「科学」「実証科学」の手法にしたがって、「興味のおもむくまま、ダイエット、健康、仕事、幸福」にかかわる「科学」“的”情報をバッタばったと切り落とす。その手法のおおよそについては次の記述からわかる。

「筆者の専門の心理学領域では、1年間に数十万件の論文が生産されている。PsycINFOというデータベースを見ると、3700万件の論文が収録されている。医学、社会科学、自然科学領域などを加えた実証科学全体では、科学論文の数は無限と言ってもよい。//筆者が『心理学で何がわかるか』を執筆した時、データベースで広汎な文献探索を行ったが、ランダム化比較試験を行っていた研究は少数であった。しかも、ほとんどの研究は盲検化されていない。つまり、バイアスだらけである。正直に言って、99.9パーセントの論文は、不要で、読む価値はなかった。未知の分野については、まず、システマティック・レビューを調べ、ある程度の見通しを得てからランダム化比較試験を行った研究論文を読んだ。他の研究デザインに基づく研究は無視した。こうすれば、バイアスで歪んだ結論に煩わされることはない」。

読みどころとしては、ランダム化比較試験などの「科学的手法」についての記述と判断を歪めるバイアスに関する部分であろうか。「筆者の興味のおもむくまま選ばれた、ダイエット、健康、仕事、幸福」に関する項目は、その科学的手法による検証の過程を示すものといっていい。

著者は、「人間はここまで愚かだった。私もその一員である。幸い、この本を書くことで、愚かさは多少修正することができた」と書いている。当方も読んで、わが愚かさを再認識し、すこしは、愚かさを修正できたように思う。

2015年12月28日レビュー


心理学で何がわかるか (ちくま新書)

心理学で何がわかるか (ちくま新書)

  • 作者: 村上 宣寛
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/09
  • メディア: 新書



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