『僕は頑固な子どもだった』日野原 重明著 株式会社ハルメク [教育・学び]
あらためて著者の人生を知り感動している
日野原重明自叙伝。「頑固」がテーマになっている。「負けず嫌いな性格で、一度決めたことは絶対にやり遂げる。そんな“ファイティング・スピリット”」の持ち主を「頑固」と言い表している。
著者は明治44(1911)年生まれで、誕生時、父親の善輔はアメリカのデューク大学へ留学中であった。その父親は、明治10(1877)年生まれである。帰国して牧師としての活動を始める。「生涯を伝道にささげた父」が著者に残した言葉は〈 3つのV 〉。将来に向っての大きな「ヴィジョン」をもち、強靭な行動力:「ヴェンチャー」を示すなら、ついに勝利(「ヴィクトリー」)がもたらされるという教え。「それは、私が人生の航路へ乗り出すときの心強い“羅針盤”となっている」と105歳の著者は記す。「・・なってきた」と普通なら書きそうなものだが、そうではない。魂に象嵌されたかのファイティング・スピリットを感じる。まさに「頑固」の所以であろう。
「頑固」とはいうものの、他から学ぶという点で、著者はたいへん謙遜かつしなやかである。鈴木大拙の言葉を引用しつつ著者は次のように記す。《「90歳にならんとわからんこともあるんだぞ、長生きをするものだぞ」// 私は医師として(鈴木大拙)先生を診るばかりでなく、むしろ先生から生き方というものを教えられた。医師と患者は双方向に関わり合い、目の前の患者から学ばせてもらうことは多い。(ウィリアム・)オスラーは「私は、私が出会ってきたすべてのものの一部である」と実感を込めて述べている。私も年を重ねるほどに、その言葉をかみしめている》。そして、他者からの教えだけでなく、人生の試練となることも、著者は「恩寵」として受け入れ、それを力としてこられた。
本書をとおし、父、母の(そして神の)愛に涵養されて人は、他者を真に愛する人間に成長するという思いを強くした。なにげない表現ながら、両親の思い出に胸を熱くした。それは、2013年に亡くなられた奥様についても同じである。これまでも、伝え聞くことは多くあったが、あらためて著者の人生を知り、ふかく感動している。
2016年12月3日レビュー
日曜美術館:小倉遊亀と梅
https://bookend.blog.ss-blog.jp/2010-05-17