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売文生活 (ちくま新書)日垣 隆著 [文学・評論]


売文生活 (ちくま新書)

売文生活 (ちくま新書)

  • 作者: 日垣 隆
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/03/08
  • メディア: 新書



「売春」も「売文」もカネカネカネ

ひどいレビュータイトルを付けたと我ながら思うが、本書は「売文」に関する本だ。要するに、カネをめぐる話である。小説家をはじめとする作家先生のフトコロ具合に焦点が当てられている。〈潤沢にカネがあって創作活動に専念でき、後世に作品を残しえた作家は数少ない。「流行作家」といえども同様だ〉と本書を(たいへん乱暴にではあるが)まとめることができる。

印象に残るのは、ロンドン留学で契約社会を目にしてきた夏目漱石が、教師生活の足を洗い、作家(売文)専業になるためにおこなった「朝日新聞」専属となるための条件(つまりカネ)をめぐるかけひき。現役作家筒井康隆のデビュー時からのカネをめぐる苦労。そして、現役ジャーナリスト立花隆のカネをめぐる愚痴。基本的に、本書全体を覆っているのは、みんな原稿料・印税を稼ぐために苦労してきたことである。しかし例外的に、驚くほど金回りのイイ「黄金時代」(大正から昭和前半まで)もあったこと、また、年産原稿用紙1万枚を書きに書いて周囲に気前よく散財した作家(梶山季之)もいたことなど示される。

最後の無頼派作家 梶山季之

最後の無頼派作家 梶山季之

  • 作者: 大下英治
  • 出版社/メーカー: さくら舎
  • 発売日: 2022/11/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


基本的に、カネを話題にすると顰蹙を買う文化が日本にはある。腹の底では、のどから手がでるほどに欲しがっていながら、それは隠して鷹揚に構えるのを美学とするところがある。著者は、ソレに反旗をひるがえす。家族を養い、イイ作品を残すためには、それなりのカネが要るだろうというのが著者の言い分である。日本のそのような文化的伝統と出版不況のさなか、著者は「売文」で生き延びてきた。カネにきたないなどと言われることもあったのではないだろうか。ある意味、本書はカネにきたないとされることへの著者の言い訳と言えるかもしれない。言わば、ソクラテスならぬ「日垣隆の弁明」である。であれば、流れとしては弁明後、毒杯を仰ぐことになるわけだが、著者の気性から想像するに「毒食わば皿まで」となるにちがいない。

すこし引用してみる。「文士には、金銭欲や出世欲など不釣り合いです。しかし、思う存分自由に、得心のゆく作品を書き続けるためには、一家のやりくりにエネルギーを削がれない程度の収入はなければなりません。 / それこそが『お金も自由も〉という、今後掲げられるべき売文生活のスローガンです(p247)」。「・・『書く』という営みはこの国ではほぼ全員ができるわけですから、筆一本で食うという行為を、『やれるものなならやってみな』という気は少しします。/ 私が本書で考えてみたかったのも、文学や文士の変遷そのものではなく、それらを踏まえた『ビジネスモデルとしての売文生活』です(p129)」。

よく調査がなされた本である。これから筆一本で生きようとする者に覚悟と同時に励ましを与える本ともなろう。なぜなら、著者は、そのビジネスモデルで「売文生活」を実践し食いつないできたからである。つまるところ本書は「やれるものならやってみな」という挑発激励の書とも言えよう。

2020年3月23日レビュー

あらゆる文士は娼婦である:19世紀フランスの出版人と作家たち

あらゆる文士は娼婦である:19世紀フランスの出版人と作家たち

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2016/10/15
  • メディア: 単行本



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