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「ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く」」筑摩書房 [マスメディア]


ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く (単行本)

ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く (単行本)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



日本のマスコミへの評価は低い。「マスゴミ」と言われている。新聞・テレビは凋落傾向にある。人気職種というのは昔ばなし。人材の質も低下し、いよいよ「マスゴミ」化している。業界そのものが、もはや風前のともしび、と聞いている。

実際のところ、広告主に忖度して真実を報じない。補助金を期待して政権におもねる。記者クラブ発表の無難なことばかり記事にする。不祥事が生じ、モンダイが起きてから、ワケ知り顔で論説する。そんなものは要らない、と言われている。

話が愚痴っぽくなった。本書は報道の明るい未来を拓く内容である。始まりは、まったくのシロウト集団、なんの権限もカネもない者たちが、インターネット上に展開する(つまり、誰でも読み、視聴できるオープンソースの)テキスト情報、画像・動画をもとに、世界的なモンダイに立ち向かう。国家的なウソを暴露する。証拠を積みあげて国家的犯罪をあげつらう。

取り上げられている事例は、「マレーシア航空17便撃墜」「ロシアの反政府活動家 ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件」等ロシア絡みが多い。特にロシアに注目しているわけではない。世界中の問題に彼らは立ち向かう。その中で、取り上げざるを得なかった問題がロシア絡みなのである。

当の「クレムリンは、情報専門家ベン・ニモ(英国の情報・軍事アナリスト)の言う「4D法」、つまりDismiss(否定)、 Distort (歪曲)、Distract (目眩まし)、Dismay(恐怖)を活用している。第一に都合の悪い事実を断固否認する。ロシア嫌いとか敵国の手先だとか見なして、その情報自体を侮辱する。次は歪曲だ。すさまじい誇張で原形もとどめないほど真実をねじ曲げ、たとえば小規模な集会を誇大に宣伝して国が抗議に苦しんでいると言ったり、あるいは単純にありもしない主張をでっちあげたりする。(事例・略)。第三の戦術「目眩まし」だが、これには陰謀論とか「そっちはどうなんだ論」とかを用いる。つまり非難されたら非難し返すということだ。(事例・略)。四番目の恐怖戦術は、クレムリンの望む筋書きにしつこく反論すると、重大な影響が及ぶと脅して黙らせるということだ(p111)」。

強大なネコとネズミとの闘いにたとえるなら、ネコに相当する欺瞞国家に弱小ネズミ集団「べリングキャット」の採用する戦術は、(彼等の名前どおり)ネコの首に鈴:ベルをつけてしまうことである。その手法は、① 特定(見過ごされている問題、発見されていない問題をネット上で特定)し、② 検証(あらゆる証拠を検証し、けっして推測に頼らない)し、③ 拡散(わかったことを拡散し、同時にこの分野を全体として広く知らしめる)することだ。彼らは、「4D法」で脅しにかかる強大なネコとの闘いで、実績をあげてきた。

評者の気分からいくと、江戸川乱歩の「少年探偵団」のガンバリを知ってワクワクする思いである。そのように例えるなら著者のエリオット・ヒギンズは探偵団長の小林少年。そして、彼等の後見人である私立探偵:明智小五郎に相当するのは全世界の彼らの応援者ということになろう。「僕の興味はただ『真実』を知る点にある」という明智小五郎に共感する人々は、べリングキャットのガンバリを応援するにちがいない。

日本の読者あての「あとがき」の最後は次のようになっている。「本書を読んでくれた日本の読者のみなさんにも、ぜひオープンソース調査の仲間に加わってもらいたい。興味を惹かれることがあったら、本書で説明した手法を用いて突っ込んで調査して、その問題について深く知ってみてほしい。そして、気が向いたら自分でブログを始めてもいい。その問題についてどう思うか、世間に知らせるだけでいいのだ。本書の実例を読んで、ほかの人がどんなふうにやってきたかわかったら、自分の興味関心へのヒントが見つかるかもしれない。調べてみたいと思う材料はいくらでもあるだろうし、時間を使って分析すれば、善意の人々の役に立つような問題もいくらでもあるだろう。ぼくと同じくゼロから始めたとしても、世界に関連情報はあふれているから、オープンソース調査の方法ぐらい簡単に学ぶことができる。そう遠くない将来、日本からもあっと驚くオープンソース調査の事例が飛び出してくると期待している(p344)」。


江戸川乱歩・少年探偵シリーズ(2) 少年探偵団(ポプラ文庫クラシック)

江戸川乱歩・少年探偵シリーズ(2) 少年探偵団(ポプラ文庫クラシック)

  • 作者: 江戸川乱歩
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2015/06/05
  • メディア: Kindle版



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