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「黒田孝高 」(人物叢書 315)中野 等著 吉川弘文館 [日本史]


黒田孝高 (315) (人物叢書 315)

黒田孝高 (315) (人物叢書 315)

  • 作者: 中野 等
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2022/09/01
  • メディア: 単行本



「黒田孝高」とあるのをどれほどの方が読めるだろうか。黒田は問題なくとも「孝高」はむずかしい。ヨシタカと読むのだそうだが、仮に読めたとしても、それでピンとくる方はどれほどいるだろうか。書籍・帯に記されているから分かるようなもので、黒田官兵衛、黒田如水のことを指すそうである。

「黒田官兵衛」でAmazon検索すると、トップに『軍師 黒田官兵衛伝 5(ヤングアニマルコミックス)』次いで『黒田官兵衛 戦国武将物語 ―天下一の軍師― (講談社青い鳥文庫)』となる。「黒田如水」で検索すると吉川英治、坂口安吾らの小説作品が上位にくる。諸作品すべてが官兵衛、如水の「軍師」としての側面を強調している。

しかし、本書『はじめに』冒頭は以下のようである。〈福岡藩黒田家の祖黒田孝高 は、通称の「官兵衛」あるいは「黒田如水」として人口に膾炙し、「稀代の軍師」として喧伝されている。卓越した智謀によって豊臣秀吉の天下統一を支えたというのである。数多くの歴史小説などでも、そうした描き方をされているが、このような評価は必ずしも学術的な裏づけをもつものではない。前近代の日本には「軍配者」とよばれ、陰陽道や易学などを駆使して合戦の吉凶を占うような人々は存在したが、そもそも「軍師」という職責は確認されていない〉。

そして次のように記される。〈本書の目的は、虚実交々に語られてきた黒田孝高の生涯を、当時の一次資料から追い、それをもとに人物像を再構築することにある〉。

興味深いことに次のような記述がある。〈今日の孝高像が創られる上で規定的な役割を果たしたのが、貝原益軒の編著『黒田家譜』であろう。『大和本草』や『養生訓』などで知られる貝原益軒は、福岡黒田家に仕えた儒学者であった〉。

しかし、益軒が17年かけて完成させた『黒田家譜』も〈孝高の没後7,80年を経ての著述であり、また、黒田家の「正史」であるがゆえの限界〉があった。キリシタン禁教下に編まれたゆえに孝高やその子(長政)がキリスト教に入信していた事実の記述はない。

今日ある黒田官兵衛、如水像は〈戦国から江戸初期にかけて活躍した人物の逸話・挿話をまとめた、湯浅常山の『常山紀談』〉、〈明治44年に福本日南が刊行した『黒田如水』、大正5年に子爵金子堅太郎が著〉した『黒田如水伝』に拠って定立されていった、という。そしてまた、吉川英治『黒田如水』、司馬遼太郎『播磨灘物語』などの小説作品はその〈「史実」の確定を金子堅太郎の『黒田如水伝』によっているように見受けられる〉と著者はいう。

著者は本書の目的に適うよう、伝存状況に限りがある一次資料に当たり、そして、その「欠を幾分かでも補うため、本書では幕末から明治にかけて活躍した長野誠の遺業におおきく依拠した」という。

というわけで本書はきわめて学術的な本である。しかし、だからと言って、ツマラナイということはない。


新装版 播磨灘物語 全4冊合本版 (講談社文庫)

新装版 播磨灘物語 全4冊合本版 (講談社文庫)

  • 作者: 司馬遼太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/25
  • メディア: Kindle版



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