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『古代中国の日常生活 : 24の仕事と生活でたどる1日』翻訳:小林朋則 原書房 [世界史]


古代中国の日常生活:24の仕事と生活でたどる1日

古代中国の日常生活:24の仕事と生活でたどる1日

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2022/02/26
  • メディア: 単行本



書籍タイトルからいくと、古代中国ではこうこうこうしたことがありましたと事績を書き連ねたツマラナイ本に思えるかもしれない。ところが、そうではない。中国古代(前漢・王莽支配時)の24の職種に各自1時間を割り当てて描く上質の短編小説シリーズといった印象だ。その文章は五感に訴えるもので、各挿話の末尾には余韻さえただよう。谷崎潤一郎は、その『文章読本』でいい文章を漢詩にたとえたが、まさにそんな感じである。

であるから、古代の生活のあり様を客観的に知る・学ぶというより、その日常に放り込まれる感じだ。当時も今も、庶民のおかれた状況は変わらず、おんなじことで苦労していたのだと思い知らされる。

ちょうど前漢の頃は、技術改革が進んでいた時期なのだそうである。そういう意味でも今日と重なるところがある。時代の波にどう応じるべきか考えさせられもした。

以下、『はじめに』から引用する。【本書では年代を、武帝による諸政策の効果が出て中国社会が長期にわたる経済的・文化的繁栄を享受していた紀元17年に設定している。この時代を象徴する人物が、このとき皇帝の座に就いていた王莽(オウモウ)だ。王莽は漢を簒奪して皇帝となって改革を進めた人物で、彼が登場した時代は、世の中が活気に満ちていて新しいことに積極的に取り組もうとしていた一方、摩擦と矛盾で社会は分断されていた。本書では、そうした社会的摩擦のいくつかを取り上げ、それが徐々に深刻になっていく様子を描いている。(なお、これらの摩擦は最終的に民衆の不安という巨大なうねりとなり、それが最高潮に達した紀元23年には、群衆が蜂起して宮殿になだれ込み、王莽を殺害することになる)〔王莽は国号を「新」と改めたが、原著では王莽時代も含め国号には一貫して「漢」が用いられている。翻訳も原著に従い、国号はすべて「漢」とした〕】

【本書で取り上げた物語は、漢帝国が最盛期にあったときの社会的・経済的生活が織りなす豊かなタペストリーがどんなものだったかを読者に感じ取ってもらうことを目指している。 / どの物語も、大部分は実際の出来事に基づいており、具体的には、・・後略・・】。

原著は英文である。著者の荘奕傑:ソウ・エキケツ(Yijie Zhuang)氏はケンブリッジ大教授とプロフィルにある。自由を得るために中国を出たとも、そのために故国を追われたとも、暗示示唆する一文もないのだが、本書を読んでいて、そんな感じがした。そして、同様に何の根拠もないのであるが、王莽がシューキンペイに重なって見えた。

なにはともあれ、知的かつ芸術的ないい一冊を読了した気分である。


24 Hours in Ancient China: A Day in the Life of the People Who Lived There (24 Hours in Ancient History Book 4) (English Edition)

24 Hours in Ancient China: A Day in the Life of the People Who Lived There (24 Hours in Ancient History Book 4) (English Edition)

  • 作者: Zhuang, Yijie
  • 出版社/メーカー: Michael O'Mara
  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: Kindle版






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