「化学史への招待」 化学史学会編 オーム社 [科学一般]
決して易しくはないが・・・
本書は通史形式をとっていない。古代から現代までを時代順に概観することをしない。「通史を学ぶことは大切ですが、ややもすれば総花的で退屈になりがち」と(「はじめに」)記されている。また、「近代科学の誕生から現代までの時代を扱う化学史の入門書ではありますが、通史とは異なり、人間が営んできた化学という領域の歴史から様々な興味深いトピックスを剔出し、それらを掘り下げて論じたエッセイからなります」と紹介されている。
入門とあるが、けっして易しくはない。すくなくとも高校程度の基礎知識が必要だろう。バラエティーに富んだ内容で、「化学史の記述法、概念史、人物史、実験史、ジェンダー、技術と環境問題、日本科学史などに関する7つの章立てに」なっている。「興味深いトピックスを剔出し、それらを掘り下げ」とあるが、通念を覆す内容と言っていいものもある。ちなみに、評者は、人物史、日本科学史は容易であったが、それ以外は気楽にエッセイを読むという風にはいかなかった。それでも、線引きしながら熟慮したい内容であった。
2019年3月21日にレビュー
以下、目次
はじめに
1 化学史研究の現在(①酸・塩基・塩の歴史 ②ロバート・ボイルの化学研究の現場 ③18世紀化学史研究の現在ージョーゼフ・プリーストリの事例をもとに ④再発見:ニッポニウムの真実 ⑤カローザースとナイロン) 読書案内
2 化学革命の現在~燃焼の本質を求めて~(①ベッヒャーとシュタール 原質説とフロギストン ②プリーストリ 「酸素の発見」と「燃焼の本質」 ③カール・ウィルヘルム・シェーレ もう一人の酸素ガス発見者 ④ラヴォワジエ 燃焼現象の解明と酸素の本質 ⑤ラヴォワジエと質量保存の法則の原理) 読書案内
3 人物化学史の現在 (①「ニュートン錬金術」研究の現状 錬金術とは? ②自然哲学者としてのマイケル・ファラデー ③メンデレーエフと周期律発見 ④マリー・キュリーとラジウムの発見) 読書案内
4 実験および実験器具の化学史 (①錬金術から化学へ 装置の連続性 ②ヴォルタまでの電気および電気実験の歴史 ③リービッヒと有機分析装置 ④アーノルド・ベックマンとpHメーター) 読書案内
5 ジェンダーと化学史 (①ラヴォワジエ夫人 化学革命の女神か? ②科学者マリー・キュリーの「栄光」 ジェンダーと、放射能の「受容」をめぐる問題 ③黒田チカの生涯 女性化学者の先駆けの軌跡) 読書案内
6 化学技術・環境問題 (①日本の板ガラス技術の歴史 ②アンモニア合成 ③合成化学物質の功罪 DDTと有鉛ガソリンのたどった道 ④環境と化学の半世紀 生物濃縮、オゾン層破壊、地球温暖化 ⑤水俣病とカセイソーダ製造技術の転換) 読書案内
7 日本の化学史 (①「化学」のはじまり ②日本の化学のはじまり 人と風土 ③幕末のロンドンにおける薩長留学生と化学の出会い ④国立科学博物館の化学者展示:日本の近代化学事始め ⑤地球化学を生きた人 岡田家武) 読書案内
おわりに 索引