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「ペーパーレス時代の紙の価値を知る ~読み書きメディアの認知科学」 柴田博仁・大村賢悟著 産業能率大学出版部 [読書法・術]


ペーパーレス時代の紙の価値を知る ~読み書きメディアの認知科学

ペーパーレス時代の紙の価値を知る ~読み書きメディアの認知科学

  • 作者: 柴田博仁
  • 出版社/メーカー: 産業能率大学出版部
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 単行本


「敵」を知るために絶好の本

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということで、本書を手にした。「敵」とは(穏やかならない言葉だが)、読書の対象となる本(また電子メディア)であり、その素材である紙:ペーパー(と液晶やら有機ELとやら)である。

これまで、よりよく「読み・書き」するうえで役立つ情報を入手することに努めてきた。その点で、認知心理学はたいへん参考になってきた。本書でも取り上げられている秋田喜代美著『読む心・書く心:文章の心理学入門(心理学ジュニアライブラリー)』などに啓発された。

それらは、もっぱら「読み・書き」する主体である人間の側の認知機能について教示してくれるものだが、本書は、読み・書く(書きこむ)対象となるモノの方に焦点を合わせている。読むにあたって、書くにあたって紙と電子媒体とでは、どのような違いがあるか、それに向かって作業するときにどれほどの効率があがるかが実験で示されていく。また、多くの人が、主観的にそう思い込んできたであろうことが、実験でくつがえされる例も示されている。

「本書の狙いは『紙での読み書きのすばらしさ』を解明することに尽きる」と(「まえがき」に)ある。現時点では、総合して紙の方に軍配があがるのだが、比較対照される電子メディアの利用価値も示されている。要は、それぞれの特性を知って、それに応じた使い方をせよということである。「敵」に応じて対応せよということである。「馬鹿とはさみは使いよう」というやつである。

その肝心な、どのように使えば、それぞれの特性を充分に活かせるかが本書に示されていく。「文書は目で読むだけでなく、『手で読む』とも言えるのである。」という記述など、たいへん(少なくとも評者には)新鮮な知見も示されている。

「本書は、特に、次のような人にぜひ読んでいただきたい。第1に、紙での読み書きのすばらしさを科学的に理解したいと思っている人。第2に、紙とデジタルの読み書きをうまく使い分けたいと思っている人。第3に、新しい読み書きのメディアの開発に従事している人や関心がある人。本書が、こうした方のなんらかのヒントを提供することができれば、幸いである。」とある。クリーム色の紙で、適度に行間が空けられ、著者たちの経験談など例えをまじえての、明快で読みやすい本だ。

2019年2月27日にレビュー

読む心・書く心: 文章の心理学入門 (心理学ジュニアライブラリ02)

読む心・書く心: 文章の心理学入門 (心理学ジュニアライブラリ02)

  • 作者: 秋田 喜代美
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2002/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


目次
 
第1章 デジタル時代の読み書き
1現状:紙から電子メディアへの急激な転換 2読み書きにおける電子メディアの利便性 3ウェブへの過剰な依存と認知機能の変容 4本書の位置づけ

第2章 さまざまな表示メディアとその特性
1紙 紙の定義 (紙の役割と種類 紙の物理特性) 2電子メディア (表示パネル 電子デバイス 電子メディアの利用上の制約)

第3章 紙の読みやすさ・ディスプレイの読みにくさ 
1読むメディアとして紙は好まれている 2ディスプレイの読みにくさの原因 

第4章 読みへの表示品質の影響 
1読みのスピードや理解度への影響 2疲労への影響 3まとめ

第5章 読みへの操作性の影響
1 読みの多様さ
2 操作の認知負荷 (1認知負荷の計測方法 2ページめくりの認知負荷)
3 読みの最中に行われる操作の多様さと実験の全体像
4 文書操作:文書の移動や配置 (1複数の文書を相互に参照する読み(実験1) 2文書移動と位置調整のしやすさ(実験2) 3ディスプレイ環境とウィンドウ操作コストの分析(実験3))
5 ページめくり (1ページ間を行き来する読み(実験4) 2テキスト文書から答えを探す読み(実験5) 3写真集から写真を探す(実験6)) 
6 コンテンツ操作・ポインティング・なぞり (1文脈的な誤りを探す読みでの紙とタブレットの比較(実験7) 2紙での操作を制限する条件での比較(実験8) 3なぞったり・書き込んだりするときの文書の位置と傾き(実験9)
7 総合的な操作 (1議論のための読み(実験10)) 
8 まとめと考察

第6章 読書への集中のしやすさ
1電子環境では読書に集中できない 
2読書への集中を阻害する電子環境特有の要因(読書に関連のない外乱刺激 思考を分散させるハイパーテキストのリンク マルチタスク(「ながら読書」)を誘う多機能な電子機器 読書中の操作のしにくさ) 
3電子では具体的なこと、紙では抽象的なことに注意が向く
4まとめ

第7章 手書き・手描きの効果
1 紙への手書きとデジタルライティングの利便性の比較
2 ワードプロセッサーを利用すると文書が良くなるのか
3 手書きでノートを取ることの利点 (1教室でタイピングマシーンと化す学生たち 2手書きの同時遂行性:手書きは考えながら入力できる)
4 手描きのスケッチが描画ツールに勝る点
5 手書きの手紙はなぜ好まれるのか?
6 まとめと考察

第8章 メディアと環境負荷
1 紙の利用はエコに反するのか 2オフィスにおけるCo2排出量の内訳 3紙とデジタル機器利用時のCo2排出量の比較 4まとめと考察

第9章 考察と提言 
1 電子書籍では、なぜ内容を覚えられないのか、なぜ読後の印象が薄いのか
2 紙とデジタルを賢く使い分けよう 3 紙とデジタルは連携すべき 4 未来のオフィスの姿:ストックレスオフィス 5 読み書きのデジタル環境への期待:思考のためのメディア 6 子供たちには、まずは紙での読み書きを教えよう  

第10章 むすび 謝辞 参考文献 商標について 著者紹介
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