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「私が作家になった理由」 阿刀田 高著 日本経済新聞出版社 [エッセイ]


私が作家になった理由

私が作家になった理由

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 単行本


作家仲間や読書法に関するエッセイも収録

「あとがき」に〈本書は日本経済新聞の“私の履歴書”に連載したもの(2018年6月1日~30日)と、東京新聞の“この道”欄に連載したもの(2017年6月5日~8月29日)を合わせ、取捨選択のうえまとめたものです。/ 類似の企画であったため、文章・内容に重複するところが残ったことをお許しください。/ つたない一書ですが、いつのまにか小説家になったプロセスを、そのまま綴った次第です。気軽にお読みいただければ、この上ない喜びです。ありがとうございました。 著者〉と、ある。

「つたない一書」とあるが、一緒にお茶を飲みながら、お話を聞くような印象だ。大上段に構えて、作家として文筆の才を存分に示して・・という本ではない。それだけに、かえって心にふっと入ってくる気がする。

「いつのまにか小説家になったプロセス」だけでなく、作家仲間(井上ひさし、星新一、向田邦子、高行健、莫言)、国語審議会、国際ペン、山梨県立図書館のこと、読書法についてのエッセイも収められている。

著者が勧めるように「気軽に」読むといい。

2019年2月19日にレビュー

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

源氏物語を知っていますか (新潮文庫)

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫



古書店のオヤジが教える 絶対面白い世界の名著70冊 (知的生きかた文庫)

古書店のオヤジが教える 絶対面白い世界の名著70冊 (知的生きかた文庫)

  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2017/10/18
  • メディア: Kindle版


以下、「ダイジェスト ①」から抜粋

初めてフィレンツェを訪ねたときガイドが私を小高いミケランジェロ広場に案内して、街の全貌を説明してくれた。
ーーこれもダイジェストだなーー

と感心した。

すべてを知ることなんてできない。私たちは結局よいダイジェストで頭を豊かにしているのだ。確かに読書については安易なダイジェストは害もある。原典をしっかり読むのがよいのは正論だ。

しかし読むべき本はあまりにも多い。ダイジェストの弱点を言うあまり、私たちはこの方面でよいダイジェストを作るのを怠っていないか。

後略

以下、「ダイジェスト ②」から引用

結局のところ私たちはダイジェストによって多くの知識を自分のものとしているのだが、それが“あまりよくない”と言われがちの読書についても、よいダイジェストなら充分に役に立つ。

“本は原典を精読すべきもの”は正論であり、先に触れたマージナリア式の読書はすこぶる大切だが、これとはべつにいくつかは熟読し、他は必要に応じてよいダイジェストを求める、これが実際的に役立つ読書法だろう。読書離れが言われているが、なんらかの形でよい情報を頭に、身近に、備えることは絶対に必要である。道具が紙の本であれ、新聞であれ、IT機器からもたらされるものであれ、収集の方法も含めて留意すべき一定の道があると思う。

そしてよいダイジェストとは・・・『知っていますか』シリーズなどいくつかの古典のダイジェストを実際に執筆出版した私が述べるのは、おこがましいところもあるけれど、あえて記せば・・・古典のダイジェストを創るのは縮図を作るのとはちがう。作り手が古典をよく理解しているのは当然として、ダイジェストを通してなにを伝えるか、良識にそいながら作り手独自の考えが明確で、それを中軸にしてくわしく述べるところ、まったく無視するところ、まだらな絵を描くような方法が肝要なのだと思う。

数年前『源氏物語を知っていますか』を書いた。私はこの方面の専門家ではないが、世界に冠たるこの古典をそれなりに愛読していた。勉強もしていた。が、専門家がわんさといるのになぜ私が綴るのか。

十年ほど前、カナダに赴き、多くの日本文学研究者と語り合った。『源氏物語』のファンが多く、ほとんどがアーサー・ウェイリーやサイデンステッカーの訳で親しんでいる。千年前の文学であることは充分知っているが、訳されている文章は現代文そのもので(日本人が現代語訳を読むのとはおおいにちがって)“源氏の君が御簾のうちに入りたまう”は、 Genji entered the curtain” とバルザックやチェーホフの翻訳と変わらない。このあたりを留意して現代の小説家である私が『源氏物語』を現代の小説としてダイジェストしてみよう、と考えたのだった。
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