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ジャーナリズムの道徳的ジレンマ 畑仲哲雄著 勁草書房 [マスメディア]


ジャーナリズムの道徳的ジレンマ

ジャーナリズムの道徳的ジレンマ

  • 作者: 畑仲 哲雄
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/08/31
  • メディア: 単行本


読者もジレンマに陥るような仕掛けがなされてある

本書では、報道の世界で働くときに遭遇する道徳的な問題が20ケース取り上げられる。そこでは、読者もジレンマに陥るような仕掛けがなされる。単なる傍観者としてではなく、当事者として考えなければならないハメになる。ジャーナリズムの恩恵を被る身として、こうしたせめぎあいを経て、新聞紙面が作られているのだなとの感慨をもった。そのご苦労を慮ることができた。

〈ケースはすべて、「思考実験」→「異論討論」→「実際の事例と考察」の3パートで構成され〉る。〈「思考実験」では、ジャーナリズムの道徳的難問が物語の形式(見開き2ページ)で示され〉〈「思考実験」の最後には、AかBかの選択肢が与えられ〉ている。〈どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけでは〉ない。 / 次の「異論討論」〉では、AとBの対立する2つの立場からの意見が(3つずつ)交互に述べられる。

各ケースごとに、ディベートに参加している気分になる。身につまされつつも、A、Bどちらの立場でもいいように(素人目に)思ったりもするが、どちらの意見にもキチンと根拠があることが「実際の事例と考察」から示される。それら一連の流れには(記憶に新しいモノ、古いモノいろいろだが)「実際の事例」がドーンとあるので、抗いがたい力がある。それだけに、否応なく考えさせられるし、単なる読み物として読んでもオモシロイ。

ちなみに、ここのところ話題によくのぼる「忖度(そんたく)」について言及のあるケース10「記事の事前チェックを求められたら」から以下に引用してみる。そこでは、もっぱら「検閲」の問題が扱われているのだが・・・。〈権力による露骨な介入はわかりやすいが、現代社会における「検閲」の問題はケースごとに判断するしかない。読者や視聴者が注意しなければならないのは、メディアが権力の意向を忖度(そんたく)して自主規制する行為だ。メディア企業が内部で自主検閲しはじめれば、読者・視聴者の側は、何が隠されたか知る手がかりを失ってしまう。〉

(以下、「目次」から)第1章 人命と報道(最高の写真か、最低の撮影者か / 人質解放のために警察に協力すべきか / 原発事故が起きたら記者を退避させるべきか / 家族が戦場ジャーナリストになると言い出したら) // 第2章 報道による被害(被災地に殺到する取材陣を追い返すべきか / 被害者が匿名報道を望むとき / 加害者家族を「世間」から守れるか / 企業倒産をどのタイミングで書く) // 第3章 取材相手との約束(オフレコ取材で重大な事実が発覚したら / 記事の事前チェックを求められたら / 記者会見が有料化されたら / 取材謝礼を要求されたら) // 第4章 ルールブックの限界と課題(ジャーナリストに社会運動ができるか / NPOに紙面作りを任せてもいいか / ネットの記事を削除してほしいと言われたら / 正社員の記者やディレクターに表現の自由はあるか) // 第5章 取材者の立場と属性(同僚記者が取材先でセクハラ被害に遭ったら / 犯人が正当な主張を繰り広げたら / 宗主国の記者は植民地で取材できるか / AIの指示に従って取材する是非) // あとがき ジャーナリストの理想へ向けて / 索引

2018年11月9日にレビュー

地域ジャーナリズム: コミュニティとメディアを結びなおす

地域ジャーナリズム: コミュニティとメディアを結びなおす

  • 作者: 畑仲 哲雄
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2014/12/23
  • メディア: 単行本



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