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アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか イワン・クラステフ著 岩波書店 [外交・国際関係]


アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか

アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか

  • 作者: イワン・クラステフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/08/04
  • メディア: 単行本


「EU諸国と同じくリベラル・デモクラシー体制をもつ日本にとっても、警告と啓蒙の書(監訳者あとがき)」

監訳者(庄司克宏氏)の「あとがき」によると、本書の原書に出会ったのは、「ポピュリズムを素材としてリベラルEUのゆくえについて執筆するため、あれこれ考えていたとき」とある。その「あれこれ」は『欧州ポピュリズム EU分断は避けられるか(ちくま新書)』として結実した。

続けて監訳者は『アフターヨーロッパ』の内容を、次のようにまとめている。〈そこでは、2015年欧州難民危機が「移民革命」と位置づけられ、EU各国内の多数派は、外国人たち(移民・難民)が自分たちの国を奪っており、自分たちの生活様式を脅かしているのではないかと恐怖を覚えた。そのような中、EU各国の極右ポピュリスト政党は、「反革命」を行おうとしているのだと説明されている。また、欧州における民主主義が長らく「包容」の手段であったにもかかわらず、ポピュリズムの勢力伸長が示すように、いまや徐々に「排除」の道具になってしまっていると指摘されている。〉

執筆の目的等について著者はつぎのように述べる。〈本書は、これから起こりそうなことについてただ思いめぐらすこと、また、われわれが個人的に経験した歴史の急激な変化が、いかにわれわれの現在の行動に影響を与えるかを分析することが目的である。私の心をとらえるのは、私が「既視感的思考様式」とみなすものが政治にもたらす力である。この思考様式とは、われわれが今日経験していることはかつての歴史上の瞬間あるいは逸話の繰り返しである、という確信がつきまとっている心理状態を意味する。 / こうした意味で、欧州は、左派と右派、北と南、大国と小国、欧州の関与の増大を望む者とその縮小またはその消滅を望む者との間のみならず、分裂を直接に経験した者と教科書から学んだだけの者との間でも引き裂かれている。これは共産主義の崩壊とかつての強大な共産圏の分裂を直接に耐え忍んだ人々と、そのようなトラウマを残す出来事に傷つくことなく生まれ育った西欧人とを分かつ裂け目である。(『はじめに 既視感としてのハプスブルク帝国』)」

その点で著者は「共産主義体制化のブルガリアで暮らして、・・・、永遠と思いこんでいたもの(つまり「ソ連」)が突然、暴力によらずに終わるということを味わったことが、私の世代の人生における決定的な経験なのである。われわれは、突然開かれた機会と、新たに見出された個人の自由の感覚に圧倒された。しかし同時に、あらゆる政治的なものははかないという感覚を新たに経験もし、衝撃を受け」てもきた。つまり本書は、そのような経験をした(トラウマのある)人物によるヨーロッパの今と「これから」を思い巡らす書籍である。

印象に残った点としては、フランシス・フクヤマとケネス・ジョウィット(Kenneth Jowitt)の論議が対照的に扱われ〈冷戦の終わりは勝利の時ではなく、むしろ危機とトラウマが始まる前兆であり、彼(ジョウィット)が「新しい世界の無秩序」と呼ぶものの発端であった。」とあること。また、1951年の「難民条約」にからんだ論議で〈欧州における現在の移民(難民)危機と、難民条約ではその危機に実効的に対処できないことは、現在の世界を再構成する際にターニング・ポイントの役目を果たす。昨日まで冷戦後の世界として概念化されていたものは、今日では、非植民地化の再来のようにますます見える。・・略・・ / 政治的文脈に大きな違いがあるにもかかわらず、現在は、1960年代の大衆の感情に似ている。不安に駆られた多数派は、外国人が自分の国を乗っ取り、自分たちの生活様式を脅かしていることを恐れ、また、現在の危機が、世界主義的(コスモポリタン)な志向のエリートと部族的(トライバル)な志向の移民の共謀のようなものによって引き起こされたと確信している。このような危機にさらされた多数派は、抑圧された人々の願望ではなく、社会的強者のフラストレーションを反映する。それは、1世紀以上前のように民族主義者のロマン主義的な想像に囚われた「人民」によるポピュリズムではなく、世界における欧州の役割が縮小することを示す人口動態上の見通しと、欧州に大量の人々が押し寄せてくるのではないかと予想されることによって煽られたポピュリズムである。それは歴史と先例があまりわれわれの役に立たない類のポピュリズムである。p30〉など。

2018年11月7日にレビュー

欧州ポピュリズム (ちくま新書)

欧州ポピュリズム (ちくま新書)

  • 作者: 庄司 克宏
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/05/09
  • メディア: 新書



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