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『ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ』 早川書房 [科学一般]


ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ

ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ

  • 作者: スティーヴン・W・ ホーキング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/07/19
  • メディア: 単行本


最新の宇宙論に“触れた”だけでも仕合せ

ホーキング博士の「遺言」ともいえる最終論文:『永久インフレーションからの滑らかな離脱?』が翻訳されてマルゴト掲載されている。(翻訳監修は白水徹也氏/翻訳は松井信彦氏に拠る)。

以下は、論文の「要旨」。「インフレーションに関する通常の扱いは、永久インフレーションでは破綻する。われわれは永久インフレーションの双対的な記述を、永久インフレーションの閾における変形ユークリッド共形場理論(CFT)から導出する。・・中略・・ このことに基づき、われわれは永久インフレーションは無限のフラクタルな多宇宙を作り出さず、その宇宙は有限でほぼ滑らかだと予想する。」

「われわれ」とは、ホーキング博士とベルギーの理論物理学者トマス・ハートッホのこと。そのハートッホへのインタビューも本書に掲載されている。彼が答えているのは、以下の質問。「お二人は宇宙の起源について新たな理論を提唱しました。現状の理論は何が問題なのでしょう?」「お二人の新理論はその課題をどう克服して宇宙に関する理論を深めるのですか?」「お二人の理論はいつか検証可能になるとお考えですか?」「宇宙が有限であるというのはいったいどういうことなのでしょうか?」「宇宙の起源や構造を理解すること。これは科学者にとって野心的にすぎる難題ではありませんか?」「そうやって打ち立てられた宇宙論がこの世界における人々の見方や行動に影響を及ぼしうるとお考えですか?」。

ホーキング博士と個人的なつきあいのあったお二方による寄稿もある。『ホーキング博士の業績と思い出』を佐藤勝彦氏。『ホーキングの最終論文を読むー内容解説』を白水徹也氏。

白水徹也氏の丁寧な『内容解説』も、理論物理学の基礎知識の希薄欠落した評者にとっては、きわめて難解。「こんなスゴイことを考えている人たちがいるんだ」とため息つくばかりである。『内容解説』には、以下の見出しが立てられている。1 はじめに(永久インフレーションの描く宇宙?/ インフレーションと一般相対性理論/ ブラックホールとホーキング/ 宇宙とホーキング/ ホーキングの選択/ ブラックホールからホログラフィーへ) 2 宇宙の波動関数と無境界仮説 (宇宙の始まりと量子宇宙論/ 量子論/ 径路積分法/ 無境界波動関数) 3 インフレーション (インフレーションの提唱/ 宇宙の地平線問題/ モノポール問題/ スローロール/ 宇宙の大規模構造/ 永久インフレーション) 4 超ひも理論の発展ーーブレーンとホログラフィー (量子重力と超ひも理論/ ブラックホールエントロピー試験/ ホログラフィー/ ベッケンシュタイン=ホーキング公式から笠=高柳公式へ) 5 無境界波動関数とホログラフィーとインフレーション (M理論/ 準古典近似の破綻/ ホログラフィーの援用/ 宇宙の形の分布/ 多宇宙/ 残された課題) 6 さいごに

総じて、たいへん難解ではあるが、それでも掲載されている参考図書(講談社ブルーバックスの『インフレーション宇宙論』、『宇宙は本当にひとつなのか』、『大栗先生の超弦理論入門』など)を読みこめば、おおよその感触はつかめるのではないかと思ったりもする。とりあえず、印象に残ったのは、ホーキング博士のユーモアと寛大さとその研究室は「とても居心地のよいところだった」という白水氏の言葉。評者としては、最新の宇宙論に触れただけでも仕合せ。

2018年9月9日にレビュー

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか (ブルーバックス)

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか (ブルーバックス)

  • 作者: 佐藤 勝彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/09/22
  • メディア: 新書



宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)

  • 作者: 村山 斉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/07/21
  • メディア: 新書



大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

  • 作者: 大栗 博司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/21
  • メディア: 新書


以下は、『ホーキング博士の業績と思い出』(佐藤勝彦氏)から抜粋。(p8)

彼は1966年に学位論文を書き、彼の名前が世界に知れ渡ることになる「特異点定理:を証明した。特異点とは時空の計量が無限大に発散し物理学が破綻している時空点である。ロシアのA・フリードマンやベルギーのG・ルメートルは一般相対性理論の式を解き、宇宙が膨張することを示しているが、開闢の瞬間は特異点である。物理学が破綻する特異点から始まったとすれば、神による宇宙創生を認めるようなもので、これを避けようと考え、多くの理論物理学者が多様なアイデアを出し研究していた。ホーキングは「相対論に従うならば、宇宙は特異点から始まらなければならない」という「特異点定理」を証明し、そのような研究は意味がなかったことを示したのである。特異点定理を証明し有名になったホーキングが1974年、さらに世界の物理学者を驚嘆させる発表をした。ブラックホールが、時間がたつと蒸発してしまい消えてしまうという「ブラックホールの蒸発理論」である。後略
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