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『人を見る目 (新潮新書)』 保阪 正康著 [エッセイ]


人を見る目 (新潮新書)

人を見る目 (新潮新書)

  • 作者: 保阪 正康
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: 新書


「時代に生きる人間の素顔を受け止めてもらいたい」

著者の読書の守備範囲の広さを実感できる本だ。

ギリシャのアリストテレスと同時代の人テオプラストスは人間の性格を30に分けて、当時の人間のありのままの姿を描く。著者は「この書(『人さまざま』)に触れたとき、2400年という時間は一気に縮まり、人間はまったく変わらないのだなと感動した。そして昭和史に限らず近代日本を見ていて、権力者を中心に演じられる百態は、まさに『人さまざま』と思ったものだ」と書く。

いわば、本書は、テオプラストスに倣って、著者の見聞きした『人さまざま』を記した本だ。と、同時に、間もなく80歳になる著者の人生観(時間観、歴史観、人間観・・・)を自ずと反映して、「人生かくあるべし」という著者の願いを示していると言っていいだろう。(もっとも、模範とすべきでない例の方が多いのではあるが・・)。


主に登場する「人」は、昭和の人々、戦時中・戦後のどさくさを生きた方々が多いのだが、最近では、「しみったれ / 哲学や思想なき打算」の項で、元都知事の舛添要一氏、「空とぼけ / 人を騙す手法の罪」の項で、現首相の安倍晋三氏、「人の操もかくてこそ / 一人になっても、見事に生きる」の項で、著述家の西部邁氏が取り上げられている。

第二次世界大戦時、主要国が用いた戦費の比率は、アメリカ:6に対して日本:1であったこと、孫文の訪問を断った南方熊楠の逸話、中江兆民の長男:丑吉の「精神」、清水の次郎長の晩年の生き方などなど、興味深い話題に尽きない。

最後に著者『あとがき』から抜粋。「本書を通じてそれぞれの世代なりに、時代に生きる人間の素顔を受け止めてもらいたいと思う。私たちはそれぞれの時代という舞台で、80年、90年、自らの役を演じきって亡くなっていくのである。せめてその間だけでも、充足感を味わいつつ、自らの役を演じきってみようじゃないか、と思う。」

2018年7月11日にレビュー

人さまざま (岩波文庫 青 609-1)

人さまざま (岩波文庫 青 609-1)

  • 作者: テオプラストス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/04/16
  • メディア: 文庫


目次

まえがき

お追従 ……権力者を中心に演じられる百態
古代ギリシアの人間模様 東条英機が優遇した「納豆組」 大島浩駐在武官
とドイツの童謡 「角栄に腰使いやがって」

お節介 ……善意が転じて悪意となるとき
オモテとウラの二側面 二・二六事件後の寺内大臣 ソ連の対日参戦、シベ
リア出兵 大宅壮一が憂えた「美談」 昭和史最大のお調子者・松岡洋右

しみったれ ……哲学や思想なき打算
船成金・内田信也の金銭哲学 六倍の戦費を補うための人柱 妄想じみた
「アメリカ処罰案」 指導者への「小人物呼ばわり」

わろき者 ……冷めた目で交友を見る
わろき者に七つあり 「最後の殿様」徳川義親の資金提供 寝業師・三木
武吉と情の人・大野伴睦 人の交わりに季節あり

よき友 ……人間同士の地肌が合う
谷崎潤一郎と船橋聖一 浜口雄幸とピストル弥団次 島崎藤村とアナキスト
ファシストの「友を持たない人生」

機嫌を知るべし ……生きていくための智恵
坂田山心中の猟奇事件 兵士たちに呪われた戦陣訓 桐生悠々「だから、
言ったではないか」 チャタレイ裁判のお粗末なわいせつ観

考える葦 ……人間性が試されるとき
パスカル『パンセ』の教え 語彙が貧弱だった池田勇人 夏目漱石、中江
丑吉の精神 「歴史のぬきさしならぬ意志」

天使と獣 ……性善と性悪のあいだ
スターリンの階級史観 獣道を進んだ指導者・東條 作家と作品の(味)
大本営発表の精神的退廃

臆病者 ……恐怖に心くじける人
生血をもって国に報いる 卑怯参謀と臆病将軍 戦時下日本の勇気ある七
議員 戦場に出ていかない「小心者」

横柄 ……自己の利益のみに忠実なさま
昭和議会史の汚点「黙れ事件」 平沼騏一郎のパラノイア症状 田中角栄と
人情の機微 渡世人ならではの真剣勝負

いやがらせ ……他人を不快にさせて楽しむ
禁止された「わしゃかなわんよう」 「熊沢天皇」とGHQ 石橋湛山が喝
破した「我が国自身」 化け物に転じた「統帥権干犯」

空とぼけ ……人を騙す手法の罪
ハル・野村会談での攪乱戦術 次世代が背負う人類の歴史 軍内上層部の責
任逃れ 爆弾三勇士と在郷軍人会

善の善なる者 ……戦わずして勝つのが務め
『断腸亭日乗』に見る慧眼 抗する者の勇気と行動力 政治は世間師の騙し
合い 幻に終わった日中和平工作

微笑の習慣 ……気に入られるための防衛策
日本人であることを恥じる マッカーサー様、日本の天皇陛下に 昭和初年代
日本人の神経衰弱 日本人の「三つの心」

人の操もかくてこそ ……一人になっても、見事に生きる
死に至るまでの進軍ラッパ 「庭の千草」が教えること 忠誠を誓う対象は何か
二・二六青年将校の「閣下、ごめん」

人性の正しい姿 ……真実の人間に出会うとき
安吾が問うた日本人の地肌 腹黒さこそ人間らしさ 「健全なる道義」のお粗末さ
マッカーサー万歳を叫ぶ軽薄

露落ちて花残れり ……はかない人生の残り香
「主」と「栖」の運命 添田唖蝉坊が諷刺した「金の世」 西郷星に託された庶民
の願い 流れの中の泡のひと粒

無色界 ……凡夫の苦しみを克服する
すべての欲を離れた世界 無色界に達する心識とは 清水の次郎長の風邪治療
人間の退廃、国民の不幸

飛蛙の音 ……悪しき社会現象への反撥か
思考の涯てにある空白の空間 国際協調を打ち破った満州事変 「幻の音」を奏
でる人 偽善的社会の憎まれ役

百代の過客 ……悠久の時の一瞬を生きる
時間と旅を謳う『奥の細道』 百代に抱え込まれた特攻作戦 「本当はあんた
は誰なのか」 「ゴドー」を待ちづつける人びと

あとがき

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